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《井上康生ジャパンの最重要人物》岡田隆が感じた「選手はスーツを着て集合」の“不合理”…康生「意味ないと思うでしょ?だからいいんですよ」
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byTomosuke Imai
posted2021/12/28 11:02
柔道男子日本代表のコーチを務めた岡田隆氏。骨格筋評論家として「バズーカ岡田」の異名でメディアでも活躍している
柔道家なんて、体が大きいので、スーツを着ていると窮屈で辛いんですよ。そんな余計なストレス与えてどうするんだと思ったのです。理由を聞いたら、「意味ないと思うでしょ? だからいいんですよ」とか言っていて。「海外の試合だと、判定とか、日本では考えられないような理不尽なことが起こる。その時に動じない精神力が大事なんです」と。そういうところがすごくおもしろかった。合理的なんだけど、泥臭いところもあって。
「東京五輪の時は、過去にないくらいやつれてました」
――合理性一辺倒にはならないんですね。
岡田 そうなんですよ。でも世界で勝つという絶対的な目標からすると合理的なんですよね。ただ、彼は感情移入がとても強いところがあって。だから、すぐ泣いちゃう。監督就任当初は、世界選手権が近づくとご飯を食べられなくなっていました。その度に僕が無理やりプロテインを飲ませたりして。東京五輪の時は、過去にないくらいやつれてましたね。柔道の全日本監督は若い時にやって、規定通り2期(8年)で辞めるのがベスト。でないと、ストレスが強すぎて病気になる。精神的重圧で体も弱りますから。
――本当にギリギリのところで戦っていたのでしょうね。
岡田 金メダルを5個も獲ったというと、「日本の独壇場」みたいなイメージを持たれるかもしれませんが、本当にギリギリの戦いでした。各国とも死に物狂いで金メダルを獲りにきていたので。なので、今回の結果を自国開催のアドバンテージみたいな言葉だけで片付けられると悲しいですよね。
「無観客だったけど、日本チームには井上康生がいた」
――ちなみに東京五輪の無観客という環境は、どう働いたと思いますか。
岡田 選手が集中できる環境にはなったかなと思いますね。会場に飲まれる、という現象は起こりにくかった。
――ただ、声援に背中を押される、ということもなかったわけですよね。
岡田 でも、そのぶん、監督とかの声がめっちゃ通ったと思います。康生監督、スタンドから、すっごい声を出していましたから。もう、やばかった。あんなに声を出してる監督を初めて見ました。延長が多かったので、「我慢だぞ!」って叫び狂ってました。僕なんか、その声を聞いてるだけで泣きそうになりましたね。無観客だったけど、日本チームには井上康生がいた。そういうことだったんじゃないかな。(つづく)
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