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《井上康生ジャパンの最重要人物》岡田隆が感じた「選手はスーツを着て集合」の“不合理”…康生「意味ないと思うでしょ?だからいいんですよ」
posted2021/12/28 11:02
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Tomosuke Imai
第3回は、井上監督時代、柔道全日本男子チームの体力強化部門長を務めた岡田隆(日体大准教授)の証言。井上体制で本格的に取り入れられた筋力トレーニング、その中心にいた岡田が明かす井上の“天才性”とは。(全8回の#3/#1、#2、#4へ)
「柔道の力は柔道でつける」は幻想だったのか?
――日本柔道界には、古くから「柔道の力は柔道でつける」という考え方があり、それを「柔道力(じゅうどうぢから)」と呼んでいました。ただ、前監督の井上康生さんは、それだけに依存しなかった。ウエイトトレーニングを積極的に採用し、部分的にその柔道力を否定したとも言えると思うのですが、実際のところ、柔道力というのは幻想だったのでしょうか。
岡田隆(以下、岡田) 幻想ではなく、理想ですね。それを体現できる人がいないわけではなかった。オリンピック3連覇を果たした野村忠宏さんは、トレーニングと言えば、もっぱら「綱登り」だったそうですから。そういう実例はある。ウエイトをやらない分、筋肉も休められますしね。ウエイトは、やらないで済むならやらない方がいい。筋肉を疲労させるわけですから。
そもそも柔道って、やることが多いんですよ。立ち技をやって、寝技をやって、相手の研究もしなければならない。ただでさえ時間がないんです。その上、ウエイトまで手を出したら、生活が圧迫されかねない。睡眠不足で神経系も筋肉も内臓も回復せず、また精神的ストレスも溜まってしまう。すると、翌日、稽古のパフォーマンスが落ちる。どんどん悪循環になっていく。本来、あのレベルのアスリートには毎日、10時間くらい睡眠時間をとって欲しいんです。昔は確かにウエイトは必要なかったのかもしれません。世界の競技人口も、レベルも、今ほどではなかったはず。ただ、今日のように発展し、戦い方も高度化してくると、限られた時間で、効率よく筋肉をつけなければならない。だから、やりましょう、という方向に舵を切ったのだと思います。
井上は「ウエイトの重要性を痛感していた」
――柔道力は、普段の食事で栄養を摂る「主食」のイメージ。ウエイトは、サプリメント等で手っ取り早く栄養を摂る「捕食」のイメージ。そういうことでしょうか。
岡田 まさにその通りです。柔道だけでも筋肉は付くんですよ。正確に言うと、わずかに付く。柔道だけで筋肉をつけるメリットは2つあります。