しばらくすると、ウエイト場にきたら、選手たちは自分がやることはわかっていて、誰も何も言わなくても始めている。だから、僕は康生監督とともに9年間、代表に関わっていましたけど、実質、仕事をしていたのは最初の2、3年だけです。リオ五輪が終わってすぐに辞めても、まったく支障はなかったと思います。日本代表に呼ばれるような選手は、世界一強くなりたい人たち、世界一勝ちたい人たちですから。ロジックを教え、気持ちに火さえつければ、勝手に人の何倍もやるんですよ。

「食もストイックで、鶏の皮とか食べない」

――康生さんは現役時代よりもスリムになった印象がありますが、あれは痩せたわけではないんですね。

岡田　絞ったんです。体脂肪だけを落とした。彼は、トップチームのリーダーたるもの見た目もカッコよくなきゃダメだという意識を持っていたので。食もストイックで、鶏の皮とか食べない。余計な油は、ほとんど摂らないようにしていました。まあ、彼の場合は、そういうのを楽しみながらやっていますけどね。

「僕は効率至上主義なので、不思議でならなくて」 ©Tomosuke Imai

――スーツ姿がカッコいいですもんね。昔の柔道界だと、オシャレに気を使ったりしたら「チャラチャラしやがって」とか言われそうですけど。

岡田　今の若い人たちって、僕らの頃よりも格段にオシャレの意識が高いじゃないですか。柔道家だって、カッコよく見られたいですよ。その本能的な気持ちを抑えつけたら、うまくいかなくなる。でも、監督が率先してそういう姿を見せたら、柔道界の重鎮たちも、誰も何も言えないでしょう。それに康生監督のカッコよさには品があるじゃないですか。派手なわけでもなく、知的な雰囲気がある。それを模倣してくれたら、柔道界のイメージアップにもつながりますからね。

「合宿初日にスーツを着て集合」の真意

――岡田さんは、康生さんの自由な発想は、どこから来ていると思われますか。

岡田　本をめちゃくちゃ読んでるし、いろんな人に会っていますよね。そこから吸収しているんだと思います。あと、現役を引退したあと2年間、イギリスにコーチ留学していますよね。そこでの経験が大きかったみたいです。全部1人でやらなきゃならなくて、すっごい大変だったらしいんですよ。宿泊先も、交通手段も、全部自分で整えなければならない。でも、成長を実感したそうです。だから、選手にもわざと面倒くさいことをさせるんですよ。

――面倒くさいことというのは？

岡田　海外で武者修行させるときも手配は全部、自分でやらせる。泊まるところも。あと印象的だったのは、合宿の初日は、わざわざスーツを着させて、会議室に集合させたりしていました。柔道着で、道場に集めればいいのに。僕は効率至上主義なので、不思議でならなくて。

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