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ロックンロールとしてのベースボールBACK NUMBER
「嫌われた監督」落合博満に“愛された音楽”とは 信子夫人とのデュエット曲に自薦クラシックCD…ど真ん中な「オレ流志向」
text by
スージー鈴木Suzie Suzuki
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/12/26 17:05
中日時代の落合博満監督。グラウンドを離れると趣味人としても知られた
キャンプに何枚ものCDを持ち込むということは、「リラックス」の方法としながら、「リスタート」の効能をも、マーチに求めていたはずだ。シーズンへの準備の場で、身体を休め、再起動させ、最終的に勝利へのBGMとなるマーチ――。
「オレ流」とは……実は「ど真ん中志向」?
また、それ以上に注目したいのは、マーチ以外の選曲である。これはもう、まさに「ベストセレクション」とでもいうべき顔触れ。クラシック界のオールスターゲーム。日本人が好きなクラシックを、有名度の順で上から選んでいったという感じのリストである。
この点が、「マーチ・マニア」であること以上に、私には実に興味深く映るのだ。というのも、私にも経験があるのだが(例えばこのCD)、普通、こういうアルバムの選曲を任せられたら、ちょっと奇をてらって、世に知られていない曲を入れたくなるものにもかかわらず、そんなけれん味が、この選曲からは一切感じられないからだ。
そう言えば、『嫌われた監督』の中で、「死ぬ前の最後の食事」というテーマで、落合博満はこう語る。
《「俺は秋田の米を食べるよ。でもな。東京で食べるんじゃあ意味がないんだ。米はその土地の水で炊いたのが一番うまいんだ」》
加えて、音楽以上に、アマチュア時代に耽溺(たんでき)した映画について語り尽くす本=『戦士の休息』(岩波書店)の中で、落合博満は、好みの女優として、オードリー・ヘップバーンとイングリッド・バーグマンを挙げている。このあたりも、昭和の映画好き日本人としては、実にけれん味のない、ど真ん中の志向だろう。
そう「ど真ん中志向」なのだ。落合博満は。
「ど真ん中」を突くオレ流は桑田佳祐も共感
野球で言えば勝利、その勝利に向けた「リラックス」「リスタート」を促すマーチ、音楽では超有名クラシック、食べ物で言えば米、女優で言えばヘップバーンとバーグマン……。
つまり、「オレ流」の本質とは、メジャーに対するマイナー/アンチ志向ではなく、周りからの目をまったく気にせず、誰が何と言おうとメジャーの「ど真ん中」を突くことなのではないか。
そう言えば、落合博満とほぼ同時期にブレイクした後、日本の音楽シーンにおけるメジャーの「ど真ん中」に仁王立ちし続ける桑田佳祐は、1987年に発売された『ブルー・ノート・スケール』(ロッキング・オン)でこう語っている。
《「落合には共感するね。凄く分かるんだ。彼がやろうとしていることが凄く」「もし野球が出来なくなったらうちのサザンへいらっしゃい(笑)」》
サザンオールスターズfeat.落合博満。歌うは、1988年の日本ロック界における「ど真ん中宣言」=『みんなのうた』だ。<オリックス編に続く>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。