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ロックンロールとしてのベースボールBACK NUMBER
「嫌われた監督」落合博満に“愛された音楽”とは 信子夫人とのデュエット曲に自薦クラシックCD…ど真ん中な「オレ流志向」
text by
スージー鈴木Suzie Suzuki
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/12/26 17:05
中日時代の落合博満監督。グラウンドを離れると趣味人としても知られた
私のお気に入りは、ラスト=#14に収められた『息子へ』。1993年に発売されたこのシングルは、当時5歳の落合福嗣くんによる、何ともあどけない声によるセリフに一聴の価値がある。曲の最後で放たれる「パパも頑張れよ!!」というエールには、ジミー大西の趣(おもむき)さえある。
「嫌われた監督」とクラシック、マーチ
しかし、今回私が注目したいのは、「嫌われた監督・落合博満に歌われた曲」ではなく、「嫌われた監督・落合博満に好かれた曲」の方だ。
実は落合が好きなクラシックの曲を集めた、その名も『オレ流クラシック』というアルバムが存在する。私は持っている。今回は、その選曲を分析しながら、音楽的側面から、落合博満の人間物語に迫ってみたいのだ。
『オレ流クラシック』収録曲(キングレコード/2005年発売)
#1.ワーグナー:ワルキューレの騎行(楽劇「ワルキューレ」より)
#2.ホルスト:木星~ジュピター~(組曲「惑星」より)
#3.ヨハン・シュトラウスII世:ワルツ「春の声」
#4.チャイコフスキー:弦楽四重奏曲第1番第2楽章(アンダンテ・カンタービレ)
#5.シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」第4楽章
#6.ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」第2楽章
#7.ヴェルディ:大行進曲(歌劇「アイーダ」より)
#8.タイケ:旧友
#9.ポール・アンカ:史上最大の作戦
#10.ビゼー:前奏曲(歌劇「カルメン」より)
#11.エルガー:行進曲「威風堂々」第1番
先の『落合博満ベストセレクション』とは、まったく違った意味で、迫力あるきらびやかなリストとなっていると思うのだが、では、このリストをじっくりと分析してみたい。
まず興味深いのは「マーチ」の比率の多さである。「行進曲」と名付けられた#7、#11に加え、マーチの代表曲である#8、また、クラシックというよりも映画音楽のジャンルに入るであろう#9がねじ込まれているあたり、落合博満の「マーチ・マニア」ぶりが見て取れる。
「キャンプにはマーチのCDを何枚も持参した」
事実、落合博満は、このアルバムのライナーノーツでこう語っている。
《そのリラックスの方法として、私はよくクラシックやマーチを聴いています。(中略)キャンプにはマーチのCDを何枚も持参したほどで、おかげでマネージャーは苦労してCDプレイヤーを探さなければなりませんでした。》
ここでまず注目すべきは、「クラシック」と「マーチ」が並列に置かれていることだ。音楽ジャンルの大区分としてのクラシックと、行進曲という中区分=マーチが並列に置かれているあたり、マーチがいかに「嫌われた監督に愛された音楽」だったかがよく分かるのだ。