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バルサ監督シャビが9年前に語っていた“選手の素質”「『そのサイズで中盤は無理だ』って。だけどみんな僕を手本にしている」
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2021/12/08 17:01
今年11月に古巣・バルセロナFCの新監督に就任したシャビ・エルナンデス
そのためにグアルディオラは複数の選手のポジションをワンセットにしてパターン化し、どんなときもこれを崩さないようチームに言い聞かせた。
クライフ直伝のアイデアであり、攻撃と守備の効率を同時に高める最良の手段であり、彼らのサッカーがつまらなくなる理由でもある。
バルサはなぜ速攻を仕掛けないのか?
たとえば自陣で敵ボールを奪ったとする。その選手や味方の誰かの前が大きく開いていても、現在のバルサは基本的に速攻は仕掛けない。選手の位置関係が乱れるのを避けるためだ。代わりに、シャビやブスケッツを中心にして短いパスを横に後ろに何度も繋ぎ、たっぷり時間をかけながら、皆で揃って上がって行く。速い展開を望む人には退屈に映る過程である。
だが、こうすることでバルサは敵陣内に網を広げられる。誰かがどこかでボールを失っても、次の瞬間複数の選手で相手を囲み、ボールを奪い返し、その地点から攻撃を再開できる。
「カギは仲間同士が離れないこと。だからパスを出すときは10mのものを1本より、3mのものを数本繋いだ方がいい。その間に、それぞれが然るべきポジションを取ることができるからね。そして全員が広がって、ピッチの全区画をカバーしたら、後はボールが勝手に繋がれていくんだ。そうしたら相手は絶望的な気持ちになるだろう。
でも反対に、長いパスを通そうとしてカットされたら、皆がポジションから外れている間にカウンターを喰らいかねない」
今年に入ってからバルサには“らしくない”試合が4度もあった。1-1で引き分けたエスパニョール戦。2-0から一旦追いつかれ、最終的には4-2で勝ったベティス戦。同じく2-0から追いつかれ引き分けで終わった国王杯準々決勝のレアル・マドリー戦。そして約3カ月ぶりの無得点試合となった0-0のビジャレアル戦だ。
グアルディオラ時代のバルサは、CLが大事な局面を迎える3月末頃からコンディションが上向きになるように調整している。ゆえに毎年この時期はパフォーマンスが落ちるため、今回もそこに原因を求める見方があったが、問題は別のところにある。
苦戦した4試合にはいくつかの共通点があった。いずれも展開がダイナミックだったこと、敵から厳しいプレッシャーをかけられたバルサの選手たちが互いの間隔をいつもの距離に保てなかったこと、さらにボールがどんどん縦に動いてしまい、シャビが時間を作り出せなかったことだ。
今季のバルサは若き日のラウール・ゴンサレスを思わせる嗅覚でスペースを見つけ出すセスクと、敵ディフェンダーの裏を突くのが非常に巧いアレクシス・サンチェスが前線にいる。そのためボールを持った者は“縦に一本通す”誘惑に駆られてしまう。
しかし、それでは現在のバルサのサッカーの拠り所であるボールポゼッションとポジショニングが成り立たなくなる。過剰なほど“横に”パスを繋ぐサッカーをしてこそバルサは強いのだ。
誰かが、手綱をとらねばならない――。
グアルディオラが、この役割を託したのはシャビだった。今季は攻撃のオプションが増えている。だからこそシャビの存在がますます重要になっているのだ。
「そのサイズで中盤は無理」と言われたけど……
先月受賞者が発表された2011年のバロンドールでもシャビは最終ノミネートに残っていた。3年連続である。