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自身の子供時代は「恐怖心しかなかった」…元日本代表・益子直美が「監督が怒ってはいけない大会」を主催し続ける理由
posted2021/10/28 11:00
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph by
Getty Images
日本のスポーツ界は「なんでもやるなら一生懸命。練習は休んではいけない。ハードに練習すればするほど上手くなる」という考え方が根強い。それが合う人もいるだろうが、それしか関わり方がないとなると、やはり窮屈だ。
女子バレーボール元日本代表の益子直美さんは、2015年から『監督が怒ってはいけない大会』を開催している。今年の4月には『監督が怒ってはいけない大会』の名前で会社を設立。代表理事として掲げた「楽しむ!」「怒らない!」「チャレンジ!」という3つの理念には、子供たちがバレーボールというスポーツの魅力を全身で味わえるように、という思いが込められている。
「怒られるばかりで、恐怖心しかなかった」
「バレーボールは、せっかく6年間、3年間とやってきたのに『もうボールも見たくない』と言って辞めてしまう子供たちが、すごく多いのが残念で……。指導者の先生方はそれを聞いたとき、どう思うのかなということをよく考えるんです」
日本の場合、小学校、中学校、高校、大学という学校の区切りが、スポーツの区切りと一緒になりやすい。それぞれに全国大会があり、そこを集大成として取り組まれることが多いのも一因だろう。
子供たちが、目標に向かって一生懸命に取り組む姿は美しい。しかし、その先は?
好きで始めたスポーツを生涯にわたって好きでい続けるための土台を築くことが、育成年代で何よりも大事なことではないだろうか。
指導者側にも「真剣に取り組んでいる」「上手くなってもらいたい」「大会で好成績を収めてほしい」という思いがあるから、結果が出ないときに気持ちが爆発してしまう面があるのだろう。人間だから感情的にもなる。それは当然だ。だからといって、子供たちに怒鳴り散らしていいなんてことはない。
益子さんが、自身の子供時代を振り返る。
「怒られるばかりで、恐怖心しかなかったんです。怒られないようにするしかなかったし、一日も早く辞めたいと思っていました。でも、子供たちが一番成長するのは、スポーツは面白いとか、やりがいを感じるとか、そういう情熱を持って取り組んでいるときではないですか? だから、そうした気持ちを失わせないように指導するというのがすごく大事なことだと思うんです。それと、当時の練習環境は“安心・安全の場”ではなかったなと思います。どうしても一方通行で、自分たちの気持ちを口にすることは一切できませんでした」