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自身の子供時代は「恐怖心しかなかった」…元日本代表・益子直美が「監督が怒ってはいけない大会」を主催し続ける理由
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2021/10/28 11:00
本来スポーツは楽しむものだが、厳しい指導を受けることでそのスポーツが嫌いになってしまう子は少なくない
どんな声かけをしていいか分からない
指導者は、ある意味孤独だ。自分の指導が良いか悪いか査定してくれる人は基本的にいない。だから、独学になりがちだ。同時に、指導者もミスを恐れる。だからプロテクトをつけて自分を守ろうとする。そうなると、周りが見えなくなってしまう。
益子さんが取り組んでいるように、本気で向き合ってくれる人と話せる機会というのはとても貴重だ。自分の素をさらけ出して相手と向き合うのは怖いし、簡単でもない。でも、そこで自分をさらけ出して振り返れることが大事だし、そうした機会を作ることが指導者育成においては重要なことだ。
「こんな話もあります。何度かリピートで参加されているチームの監督さんで、なかなか怒ることをやめられない方がいたんです。そんな人には私、優しく注意しにいくんですけど、注意にいけないくらい威厳のある方で……。でも、その監督は監督なりに怒りを封印するチャレンジをしてらっしゃったんです。
ある試合で負けたあとに、その方が私のところに来て『タイムアウトを取ったけども、怒りを封印したら、なんて言葉をかけていいのかわからなかった。このあと、子供たちのところへ行って一言言わなきゃいけないんだけど、なんて言えばいいかわからないんです。どんな声をかけたらいいんでしょうか?』と頭を下げて尋ねてくださったんです。もう長いこと指導者をされている方なんです。感動しましたね。すごいチャレンジじゃないですか」
「良いところを褒めてあげていなかった」
益子さんと話し、自身のこれまでの指導を振り返ると、「あのミスがいけないんだ!」と、メンタル的な指摘ばかりになっていたことに気づいたという。
「このあと、子供たちにどうなってほしいですか?」と益子さんが尋ねると、「今度このチームと対戦したとき、自分たちから勝ちたいと思える子供たちになってほしい」と想いをこぼしたという。
「そういう気持ちになれるような声掛けを考えましょうと言うと、『良いところを褒めてあげていなかった。これまで練習してきてできるようになったこともあったのに、そこを認めてあげられなかった』と気づかれました。しばらく話をして、『今から子供たちのところへ行って、1人ずつ良かったところを褒めるよ』とチームへ戻っていかれました。長いこと指導者をやってきた方が変化するのは、痛みもあって大変な作業だと思うんです。でも、いくつになってもできるんですよね」