「今のコースで今のシューズを履いていたら楽勝だったと思いますよ（笑）。ただ当時の東京マラソンは35km以降にアップダウンがあって、しかも終盤は向かい風。コースの下見をしていなかったので、驚きました。このときばかりはコースを見ておけば良かったと後悔しましたね。終盤はずっとショックを受けながら走っていました」

2011年の東京マラソンにて　©Naoya Sanuki

　それでも東京マラソンの結果が評価され、2011年夏のテグ世界選手権男子マラソン代表に選出された。「日本代表に選ばれたときは達成感がありました。めちゃくちゃうれしかったです」と尾田くんは素直に喜んでいた。しかし、テグ世界選手権は早々とトップ集団から脱落。2時間18分05秒の28位に終わった。

「テグのときはアキレス腱に直接痛み止めの注射を打って出場しました。アキレス腱が腫れてしまって、全然練習ができていなかったんです。その後もマラソンを目指していたので練習量が増えて、故障が多くなりました。マラソンはうまくいかなかったですね」

引退、そして会社勤め「仕事を覚えるのが大変で……」

　そして2015年2月の別府大分毎日マラソンで現役を引退した。34歳のときだった。同学年の選手では、最も長く実業団選手として過ごしたことになる。現役引退後は社業に専念。半年ほどまったく走ることはなかったという。

2時間15分52秒の13位で最後のレースを終えた　©KYODO

「とにかく仕事を覚えるのが大変で、走りたいとは思わなかったんです。でもデスクワークは下半身が浮腫むんですよね。それが気持ち悪くて、健康ジョグをするようになりました。最初は全然走れなくて、速めのジョグを30分しただけで筋肉痛になったくらいです。でもちょっと走るだけで脚がスッキリして、仕事のことも忘れられる。汗をかいて気持ちがいい。そこからずっと続くようになったんです」

　当時、尾田くんは陸上部寮の近くに住んでいたので、たまに朝練習にまざるようになったという。ひとりのときは30～40分、陸上部の朝練習では50分ほどを走るようになった。「健康のため」のランニングだったが、尾田くんが引退した1年後、駒大でも活躍した高林祐介が引退。一緒に走るようになり、新たな“競技人生”が始まった。

「現役時代はずっと慢性疲労のようなものがありました。それが半年くらい休んだことで、疲れが完全にとれたんです。フレッシュな身体が、こんなに動くんだということを知りました。ポイント練習を入れちゃおうかなという気持ちになったんです。

　引退したばかりの高林が日本選手権の1500mに出場するので、僕もスピード練習に付き合うようになりました。愛知マスターズの方から、僕の年代の選手がいないということを聞いたんですけど、当時の1500mマスターズ日本記録が4分を少し切ったくらいだったんです。これなら破れるかなと思って、1500mに挑戦するようになりました。1500mの練習は現役時代やってこなかったのできつかったですけど、楽しかったですね」

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