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「自分がヒヨッコに見えた」山縣亮太はなぜ“短距離のタブー”筋トレを始めたのか? パリ五輪では「2~3キロ増量」の理由
posted2021/11/04 06:00
text by
倉世古洋平(スポーツニッポン新聞社)Yohei Kuraseko
photograph by
YUTAKA/AFLO SPORT
山縣亮太の東京五輪は、戦う前から勝負が決まっていたのかもしれない。自国開催の祭典で予選落ちをしてから約2カ月後、インタビューをする機会に恵まれた。その言葉から、男子100メートル予選に臨む直前、周囲に気圧されていたことが感じ取れた。
「横を見たら、体つきがゴリッゴリの海外の選手がいて、自分がすごくヒヨッコに見えたんです」
同じ3組には、金メダルを獲得するラモントマルセル・ジェイコブス(イタリア)がいた。分厚い胸板が嫌でも目についた。1つ後ろの4組は、準決勝で9秒83を出す蘇炳添(中国)が、はち切れんばかりの肉体で存在感を放っていた。
自身の故障とコロナ禍もあって、海外勢と顔を合わせるのは2年ぶりだった。国際大会経験の豊富さでは日本トップクラスの第一人者が、竜宮城から帰った浦島太郎のような錯覚に陥った。
「コールルームで久々に外国勢を見て、自分が全然鍛え足りていない、というのを正直感じました」
しかし、自分が「ヒヨッコ」であると、認めるわけにはいかなかった。6月に9秒95を出した。日本新は、トレーニングの量も、知識も、誇れるものを築き上げてきた成果だった。
TOKYOでは、過去2大会で敗れた準決勝を越え、日本人89年ぶりの男子100メートル決勝進出を狙っていた。予選のスタートを迎えるまで、揺れる心中を何度も落ち着かせようとした。しかし、一度芽生えた臆病に似た感情は、なかなか消えなかった。
「不安もあるし、開き直りもあるし、部分的には自信もあるし、いろんな感情でしたね」
「スタートから勝てなかった」
7月31日午後8時すぎ、新しい国立競技場は、最新の照明設備によって昼間のように明るかった。号砲。いきなり、ジェイコブスに出られた。得意の序盤で、差を付けられた。
「末脚の選手って感じですけど、スタートから勝てなかった」
10秒15で4着。過去の五輪2大会で自己記録を出した“ミスター大舞台”が、本来の力を出せないまま、祭典の舞台から下ろされた。