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「頂点は林下詩美じゃなきゃダメ」23歳の“赤の女王”が重圧を超え、彩羽匠との歴史的大一番で見せた“チャンピオンのプロレス” 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byNorihiro Hashimoto

posted2021/10/13 17:01

「頂点は林下詩美じゃなきゃダメ」23歳の“赤の女王”が重圧を超え、彩羽匠との歴史的大一番で見せた“チャンピオンのプロレス”<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

10月9日に行われたスターダム大阪城ホール大会。メインでは林下詩美が彩羽匠を下して防衛を果たした

 トップは“仕事”も多く、だからとにかくタフだ。試合後のコメントを終えると関係者と記念撮影し、ついでにタッグパートナーの上谷沙弥ともツーショットに収まって、それから複数のメディアから個別インタビューも受けた。筆者もその中の1人。王者としての悩みと自負に加えて、足4の字固めを使った理由も聞いた。答えはもちろん、10月9日だからだった。

10月9日の“特別な意味”

 10月9日という日付は、プロレス界にとって特別な意味がある。1995年のこの日、新日本プロレスとUWFインターナショナルが東京ドームで対抗戦を行ない、新日本が大勝したのだ。プロレス界の勢力図を決定づけるほどの闘いで、メインは武藤敬司vs高田延彦。格闘技色の強いスタイルでのし上がった“U”の高田を下した武藤のフィニッシュは“ザ・プロレス技”とも言える足4の字だった。

 林下が生まれる前の試合だ。しかし彼女は「10月9日にビッグマッチのメインで試合ができたのは運命なんだと思います」と言う。“10.9”に足4の字固めを使ったのは、男女の別なくプロレス史の中にスターダムを位置付けようとする行為だったのかもしれない。

「スターダムこそ最先端の王道女子プロレス。その最先端が林下詩美」

 リング上でそう宣言するだけの試合を、確かに彼女は見せたのだった。

 この大会では、赤いベルトへの挑戦権利証を持つ朱里も足4の字固めを使い、鹿島沙希からギブアップを奪っている。朱里は「高田延彦の古くからの友人」こと高田総統が活躍したエンタメプロレス『ハッスル』の出身。高田と同じ曲で入場していた時期もある。そんな朱里が、新日本と同じブシロードグループのスターダムに所属し、10月9日に足4の字で勝つというのも歴史を感じさせる場面だった。対戦カード変更で実現はしなかったが、彼女はこの日、UWFルールで闘う予定でもあった。

「10.9の試合のことは、子供だったしリアルタイムでは知らなかったです。ただ10月9日、UWFということの意味を考えるとこれだってなりますよね。あの時のファンの熱狂は、いま映像で見ても凄い」

 あの熱狂をスターダムにも持ち込みたい。“10.9”リアルタイム世代に今の女子プロレスが伝わるきっかけになったらなおいい。そんな気持ちだったそうだ。

 こうした視野を持っていることも含めて、やはり林下と朱里は飛び抜けた存在だ。12.29両国国技館に向けたベルト争い、挑戦権利証争い(これも防衛義務がある)で2人に勝つには、そのプロレスラーとしての価値観にも挑んで上回る必要があるのではないか。スターダムのトップ戦線は、もはやそれくらいのスケールになっている。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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