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「頂点は林下詩美じゃなきゃダメ」23歳の“赤の女王”が重圧を超え、彩羽匠との歴史的大一番で見せた“チャンピオンのプロレス”
posted2021/10/13 17:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
「大阪城ホールで最後に入場するのが林下詩美というのが大事なところです。そしてスターダムのすべてを背負って、ベルトを持って最後にリングに立っていたい」
10月9日の大阪城ホール大会に向けて、女子プロレス団体スターダムの最高峰、“赤いベルト”ことワールド・オブ・スターダム選手権を保持する林下は言った。チャンピオンが大会の最後、つまりメインイベントの赤コーナーに入場し、勝って大会を締める。それは普通のようでいて、決して簡単ではなかった。昨年11月にわずか2年あまりのキャリアで戴冠して以降、林下はそれを痛感してきた。
王者・林下と彩羽の「完全決着」
過去6回の防衛戦のうち、3.3日本武道館と4.4横浜武道館は大会の“トリ”を他の試合に奪われた。団体側は「メイン」「セミ」という表記をしなかったが、事実上のセミファイナル=メインを逃したということになる。当然、チャンピオンとして悔しさがあった。
6.12大田区総合体育館のメイン、朱里戦は延長再試合まで闘って両者KOの引き分け。ベルトは守ったが勝つことができなかった。また、この大会にはもう1人の主役がいた。シンデレラ・トーナメント優勝者の上谷沙弥だ。林下はこのトーナメントの2回戦で敗退している。7.4横浜武道館もメインだったが、挑戦者の刀羅ナツコが試合途中で負傷したため不本意なドクターストップとなってしまった。
華やかに激しく、気高く美しく。薔薇のイメージでファンを魅了する林下(入場時にはリングサイドの女性客に一輪の薔薇を手渡すパフォーマンスも)だが、防衛ロードはむしろ茨の道だった。最後に入場して最後にリングに立っていることを、王者のプライドとして切望していた。
団体初進出、女子プロレス26年ぶりとなる大阪城ホール大会。そのメインかつ赤コーナーはとてつもない栄光だ。同時に、王座陥落の大ピンチでもあった。挑戦者はマーベラスのエース、彩羽匠。長与千種の愛弟子であり女子プロレス界トップの一角。彼女に勝てる選手はそうはいない。
9月まで行なわれていたリーグ戦『5★STAR GP』での対戦は20分時間切れ引き分けに終わっている。完全決着を期した林下は、調印式で時間無制限一本勝負を要求した。そのことでファンの期待感は高まった。同時にハードルも上がったと言えるだろう。誰もが「どれだけ凄いものを見せてくれるんだ」と考えるからだ。
中野vs岩谷は“感情むき出しの殴り合い”に
彩羽の実力、女子プロレス史に刻まれる大会のメイン、時間無制限というシチュエーションの他に、セミファイナルも1つのハードルだった。“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダムのタイトルマッチ。王者・中野たむに“スターダムのアイコン”岩谷麻優が挑む。
2人は以前、同じユニット「STARS」に所属していた。だが、たむが自身のチーム「コズミック・エンジェルズ」を結成して袂を分つことに。いつかは決着をつけなければならない関係だった。
「どうしても、岩谷麻優が私を弱くしてしまう。捨てきれない執着がある。それを断ち切るためにも岩谷麻優を倒して、スターダムの一番になりたい」