濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「頂点は林下詩美じゃなきゃダメ」23歳の“赤の女王”が重圧を超え、彩羽匠との歴史的大一番で見せた“チャンピオンのプロレス”
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2021/10/13 17:01
10月9日に行われたスターダム大阪城ホール大会。メインでは林下詩美が彩羽匠を下して防衛を果たした
プロレス、とりわけ女子プロレスでは感情をさらけ出すことが大事だと言われる。たむvs岩谷が、まさにそうだった。一方、赤いベルトをかけた最高峰の試合で林下が見せたのは“感情のプロレス”ではなかった。そのかわり、彼女は純粋に肉体とその動きですべてを表現してみせたのである。泣かなくても叫ばなくても、彼女がどれだけ強いのか、どれだけ勝ちたいのかが伝わってきた。それが林下詩美のプロレス、チャンピオンとしてのプロレスだった。
「彩羽匠さん……隙がない、強すぎる。チャンピオンがこんなこと言っちゃダメかもしれないけど、あの人から防衛できてよかった。ホッとしちゃってます」
試合後の言葉からも、大きな山を乗り越えたことが分かった。ただ、ここで止まるつもりはない。朱里との決着戦も待っている。舞台は12月29日の両国国技館大会だ。だが林下は、次の防衛戦を11月3日の川崎市とどろきアリーナで行なうと表明した。チャレンジャーに名乗りを上げたのは、リングに復帰したばかりの葉月。勝者は11月27日、国立代々木競技場第二体育館で舞華の挑戦を受けることになりそうだ。
「11月はタイトルマッチをやらず12月に朱里さんと、となると2カ月あいてしまう。それでチャンピオンは名乗れないなと。大舞台があるならいつだって挑戦を受けるし、何度でも相手を叩きのめします。そして頂点が林下詩美であることを証明する」
23歳でトップに立つ“プレッシャー”
茨の防衛ロードを振り返って「大阪城で勝って、やっぱり頂点は林下詩美じゃなきゃダメだなって思いました。(王座戦を)セミにしたヤツ、よく聞いとけよ」とも。そしてこう付け加えたのだった。
「しゃべるのが苦手で、チャンピオンだからと我慢してきたこともあるけど、全部言わせてもらいましたよ。これからは少し偉そうに、堂々とさせてもらいます」
そう言って椅子の背にもたれ、足を組んで笑う。そんな姿からも、大阪城ホールで彩羽匠に勝つことの意味、これまで彼女が感じてきたプレッシャーが伝わってきた。
先月23歳になったばかり。調印式の写真撮影では彩羽にいきなり手を握られ、振りほどくこともできずに黙っていた。顔は明らかにドギマギしていた。けれどリング上では“赤の女王”ぶりがこれ以上ないほど決まっている。なるほどこの団体のトップは彼女なのだと、一目見ただけで理解できる。