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2年で賞金が300万円上昇 「ウィンブルドンでシングルスは不可能」と言われた“車いすテニス”が急成長できたワケ
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byNaoya Sanuki
posted2021/09/18 17:03
世界トップ20に5選手がランクインする強豪国となった日本。日本だけでなく世界的に見ても車いすテニスは急成長している
ウィンブルドンのコートは芝であり、柔らかい芝の上では、車いすはスピードを失う。男子世界1位の国枝慎吾によれば、「ハードコートなら1回漕いで進む距離が、芝だと3回、4回とプッシュしなくてはいけない」ほどだ。そのため、ひとりでコート全面をカバーするのは無理だと考えられ、ウィンブルドンでは長く、車いすテニス競技はダブルスのみの開催だった。
そこにシングルスが加わったのは、2016年のこと。選手たちの進化したフィジカルと技術、そして車いすそのものの軽量化もあり、かつて不可能だと思われたことは現実になる。それどころか、球足の速い芝で勝つために、選手たちはネットプレーにも磨きをかけるようになったのだ。一つの革新の実現は、さらなる進化と多様性を、車いすテニスにもたらしている。
車いすテニスの賞金は「2年で300万増額」
そのように年々高まるプレーのレベルが、より多くの観客の足をコートに向かわせているのも間違いない。グランドスラムにおける車いすテニスの人気向上は、賞金額にも見て取れるだろう。
今年のウィンブルドンの賞金は、車いす部門の男女ともシングルス優勝者が4万8000ポンド(約728万円)で、ダブルスは2万ポンド(約303万円)。コロナ禍での開催のため大会全体の賞金額は2年前に比べて大きく減っているのにも関わらず、車いすテニスの賞金は、シングルス優勝が4.35%、ダブルス優勝も11.11%増額されている。
賞金の向上により選手は自己投資し、ゆえに競技のレベルが上がり、高質なプレーに魅せられさらに人気も高まっていく――そんなポジティブサイクルが、車いすテニスでは生まれつつあるようだ。
そしてその好循環の渦の中心に、これまで39度の対戦を重ねてきた、デグロートと上地がいるのは間違いない。