甲子園の風BACK NUMBER
「智弁和歌山→慶大→ロッテドラ1」の喜多隆志、興国高校の監督になって3年で“履正社に勝利→大阪桐蔭を追い詰められた”ワケ《同期・中谷仁監督に続け》
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakashi Shimizu
posted2021/09/21 11:02
興国の監督として指導する喜多隆志監督
「なんかしろ」
急に喜多が選手に大きな声で、連続して指示を出した。グラウンド整備をしていた彼らの手が止まった時だ。
「これがうちのチーム。一瞬、無になる(笑)。1個、指示を言った後に2個目を言うんですが、すると1個目をできなくなって2個目だけになる。
もう、我慢です。耐えることは野球で学んできた。自慢できるのは辛抱強い、ということ(笑)。放り投げた瞬間に終わっちゃいますから。僕は生徒に対する思い、高校野球への思いが極端に強い。だから(気持ちを)保てているのかなと。僕は普通じゃないと思うんで。どうしてもグラウンドに足が向いちゃう」
この情熱は高嶋から受け継いだものだ。
履正社に勝ち、大阪桐蔭撃破もあと一歩だった
今年の夏、準々決勝で履正社に勝ち、自身初めて決勝に進んだ。9回には大阪桐蔭相手に追いつくなど、大接戦を演じた。去年の秋は準々決勝で大阪桐蔭に1対15のコールド負けを食らっていた。《もう1回、桐蔭とやろう》を合言葉に一つ一つレベルを上げていったチームだった。
「桐蔭でレギュラーになれるような選手は一人もいない。でも、全員が同じ目標に向いたとき、見えない力が沸いていた。僕がイメージする高校野球を体現してくれた学年でした。素直だったし、学校生活も大きなトラブルもなかったですし」
時に、野球以外でトラブルが起こることがある。授業中の“ケンカ”などは、かわいい部類のヤンチャだが、些細なことでもチームは後退する。学校長からは野球部は看板です、と言ってもらっている。それにふさわしい行動、立ち振る舞いが求められる。周りから応援されるから勝つチャンスが得られる。それは口うるさく伝えている。
「野球の前にそっちが大事。学校生活が適当でグラウンドだけちゃんとやるような子は伸びないのではないでしょうか。監督、コーチがいる時だけは一生懸命にやるとか、そんなチームは強くない」
大阪大会決勝後、高嶋先生から届いたメッセージ
日々、様々な発見の連続だ。子供からの貴重な発信を見逃さないようにアンテナを張る。キャッチできなかったときに、“あっ、しもうた”ということがないように。もどかしいことが多いのは想像できるが、喜多の性分には合ってるようだ。
「朝日大学でもそうでしたが、昔から表現できない子が気になって、よく声をかけてました。思っていることを口に出せない子には、こっちが理解したうえでコミュニケーションをとると、心を開いて変ってきよるので。彼らの本心を聞き出せれば、指導も入っていく」
学校では生徒指導部の一員でもある。一般生のトラブルの事情聴取もして、気持ちを汲んでやる。それは野球の現場にも生かされる。エンパシーに優れた指導者だ。