甲子園の風BACK NUMBER
甲子園優勝+元ドラ1捕手の中谷仁監督は「合格点」を出さないが… 智弁和歌山・渡部海の2年生とは思えない好リードとリズム
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/08/27 06:01
2年生ながら智弁和歌山の正捕手を務める渡部海。来年はキャッチャーの“A級選手”としてさらに注目を集めるかもしれない
夏の甲子園で優勝を果たし、ドラフト1位でプロの世界へ。楽天や阪神、巨人で捕手としてプレーした指揮官は、渡部に準備の大切さを伝えているという。捕手の力が勝敗を分ける。その役割の大きさと、渡部の伸びしろを知っているからこそ、簡単に褒めるわけにはいかないのだろう。
1学年上の先輩がほぼ首を振らないリード
中谷監督から「合格点」は出なかったが、渡部は投手の特長を引き出した。
石見智翠館打線と1巡目の対戦を終えると、組み立てを変える。塩路の直球にタイミングを合わせていると感じ、変化球を効果的に織り交ぜる。3回2死一塁。2番打者を直球とスライダーで2ストライクと追い込むと、「腕を振れ」とジェスチャーしてから外角にミットを構える。相手打者は直球に手が出ず、見逃し三振。
6回無失点と好投した塩路を支え、毎回の8奪三振のうち3つは、相手の裏をかく配球で見逃しによるものだった。
3人の投手リレーで相手打線を1点に抑えたのは配球に加えて、渡部がつくり出す強弱をつけたリズムも要因だ。塩路は渡部のサインに全く首を振らない。サインにうなずきながら投球モーションに入る時もあるほど。テンポの良い投球が打者に考える時間を与えず、守備にも流れをつくる。ただ、塩路が2回に初めての走者を出した時には、にこやかにマウンドに行きリラックスさせる間をつくる。
2番手でマウンドに上がった高橋令も、1学年下の渡部のサインにほとんど首を振らない。
渡部は大きくうなずいたり、ミットを叩いて鼓舞したりしながら、甲子園初登板の先輩を引っ張った。渡部は初戦の高松商戦でも中西聖輝と伊藤大稀、2人の3年生投手をリードした。間を取って落ち着かせ、声とジェスチャーで鼓舞する。リズムを操る姿は後輩には見えなかった。
準々決勝では渡部以外に2人の2年生捕手が出場したが
この日、渡部と同じ2年生捕手で苦労したのは、石見智翠館・上翔曳と、準々決勝の第1試合で京都国際に敗れた敦賀気比・渡辺優斗だった。
石見智翠館・上は、投打の柱となる3年生の山崎琢磨とバッテリーを組んだ。立ち上がりから、山崎がサインに2度、3度と首を振る場面が目立つ。強打の智弁和歌山打線を警戒し、リズムがつくれない。その影響もあってか、序盤で2つの失策も重なった。
上は「相手打線が初球から振ってくるのは分かっていましたが、自分のリードも悪いところもあって打ち取れませんでした。(山崎は)疲労もたまっている中で腕を振って、コントロールも少ししかずれていなかったので、しっかり投げてもらったと思います。自分のリードが悪かったです」と責任を背負った。