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400mリレーで「攻めバトンに賭けるしかなかった」事情…日本の短距離はなぜ“惨敗”してしまったのか?
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/08 17:04
決勝で完走できず、肩を落とす(左から)小池祐貴、山県亮太、桐生祥秀、多田修平
昨年、大会が1年延期になり、それに伴い世界陸連の選手選考基準も変更になった。コロナ禍で大会出場ができなかったり、海外遠征が難しい選手も多いことから、2020年度の記録はオリンピックの選考基準からは除外された。つまり昨季の記録はノーカウントになった。
今季のシーズン開始時点で標準記録をクリアしていたのは、サニブラウン・アブデルハキーム、小池祐貴、桐生祥秀の3選手。ほかの選手は日本選手権までに標準記録を突破するか、日本選手権での優勝が必要になった。
試合を絞って出場できた(標準記録を突破しているため)3選手と比較して、山縣、多田は序盤から精力的に試合に出場せざるを得なかった。
山縣は6月6日の布勢スプリントで9秒95の日本新、多田が10秒01で標準記録を突破。日本選手権では多田が優勝、山縣が3位で代表権を獲得している。梅雨の時期で雨が多いためコンディションがいい時に標準突破を狙ったのは当然だが心身への負荷が大きかったはず。今大会の100m予選では、2人とも精彩を欠いた走りだった。
他の選手の理由や状況は分からないが、大会に合わせる力がなかったのも、また事実だ。
日本の4継チームは“世界レベル”ではないのか?
桐生は決勝後に「個々の力がないことを痛感した。9秒台の選手は揃っているが、自分もまだ1回しか9秒台を出していない」と口にした。
桐生の言葉を補足すると安定感という部分では、世界のトップ選手に及ばない部分はある。しかし桐生を含めて個々の力は確実にそして飛躍的に上がっている。また1回しか9秒台を出していないと言うが、9秒台で走った感覚はまちがいなく体が覚えているはずだ。安定して10秒0台のタイムを出せるようになれば、再び9秒台の扉は開く。
それは桐生、そして他の選手もよくわかっているだろう。