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アスリートの“メンタルヘルス問題” オリンピアンはどう戦ってきた?「すべてを犠牲にする価値があるのか自問自答している」
posted2021/08/09 17:00
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Getty Images
過去のオリンピックで選手たちがメンタルヘルス、心の悩みについてこんなに声をあげたことがあっただろうか。
連覇の期待がかかった米国の女子体操シモーネ・バイルズがメンタルヘルスを理由に団体、個人戦の棄権を発表。「逃げた」「負けるのが嫌だから棄権した」などと批判の声もあったが、大多数はバイルズ擁護の意見だった。
バイルズは怪我や腎臓結石などを抱えながら大会出場をした過去を持つ。理由もなく諦めたり、投げ出したりする選手ではない、多くの人がそれを知っている。彼女が抱えていたプレッシャー、ストレスは彼女自身にしかわからないものだし、他人がとやかく言うものではない、そんな意見も多かった。
バイルズだけではない。心の問題、ストレスを口にする選手は多い。
「選手ではない部分の自分に興味がないように思う」
「次の試合はいつ?」
「結果はどうだった?」
「オリンピックは開催されるの?」
選手の友人や知人たちは、「最近どう?」と聞く代わりに、スポーツのことを聞く。悪気があっての質問ではない。
でも「そこで質問が終わると、スポーツ選手ではない部分の自分に興味がないように思う。私たちにも感情があるのに」と陸上の女子砲丸投げで銀メダルのレイブン・ソーンダースは話す。
試合の結果を聞かれるのが嫌なわけではない。どんな結果だったのか、どんな気持ちだったのか、もう少し踏み込んで聞いてもらえたら。それが彼らの願いだ。
ソーンダースは鬱を発症したことがあり、今もメンタル面で不安定になることがある。全米オリンピック選考会前に臀部の怪我をした際には、砲丸投げのグウェン・ベリーに泣きながら電話した。
「大学時代に一緒に練習したことがあって、自分のことをよく分かってくれている。競技の不安を聞いてくれるのは、やっぱりその競技を知っている人だから」
ライバルの一言に救われた夜
男子走高跳びで金メダルをとったイタリアのジャンマルコ・タンベリは、大怪我から復帰した2017年のある大会で、ライバル選手のムタス・バーシムに救われた経験を持つ。