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400mリレーで「攻めバトンに賭けるしかなかった」事情…日本の短距離はなぜ“惨敗”してしまったのか?
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byJIJI PRESS
posted2021/08/08 17:04
決勝で完走できず、肩を落とす(左から)小池祐貴、山県亮太、桐生祥秀、多田修平
映像を見ると多田が内側の選手との接触を避けようとしたのか、もしくはスピードが出すぎたのか、カーブで少し膨らみすぎたように見える。その後、山縣にバトンを渡すためにレーン内側に進路をとろうとしたために、そこでタイムロスが生じている。
そのわずかなロスが、バトンミスに繋がった。
金メダルを目指し、攻めた日本は2走山縣のスタートのタイミングを予選から決勝で約1歩分増やしていた。レース中にわずかな誤差が出る可能性を考えず、ギリギリまで攻めたのは、個々のコンディションがベストではなく、お家芸のバトンパスに頼らなければならなかったからだ。
日本風に言えば、「仕方がない」状況だった。しかし一方で、今回の日本に限ったことではなく、攻めた戦略がはまらず、結果に結びつかないケースもある。
男子400mハードル2位のライ・ベンジャミンは、最初の3台をいつもよりも早く入ったために4台目のハードルで足が詰まってしまった。従来の世界記録を大きく上回る46秒17を出したにもかかわらず、「あそこで歩数を刻んだのが敗因」と涙を流した。
男子110mハードルで2位のホロウェイも同様だ。8台目から9台目のピッチが乱れたこと、10台目で若干バランスを崩したことで金メダルに届かなかった。
跳躍、投擲種目でも同様だ。アプローチを変えたり、棒高跳びのポールの硬さを変えたり、勝つための一手が功を奏する場合もあれば、裏目に出る場合もある。
ほんのわずかな1センチ、2センチのズレ、0.1秒、0.01秒の差が勝負を分けることもある。
それが陸上であり、スポーツだ。
自国開催で「金メダル」を目指したが…
リオ五輪では、自己ベスト9秒台の選手がいない中で銀メダルを獲得。すべての選手が素晴らしい走りをしたことに加えて、アンダーハンドのパスの技術も光った。日本は強豪を抑えて、ほぼ先頭でアンカーのケンブリッジ飛鳥にバトンが渡った。最後にジャマイカに離されたが、すべてが上手く行ったケースだった。
開催国として迎える東京五輪では、その上の金メダルを目指した。
しかし今大会に関して言うと、各々がピークを合わせられなかったと言える。
例えば、山縣や多田はコロナで選考方法が変わった影響を大きく受けている。