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<東京五輪>オシムが語った日本対スペインの論点「日本は簡単にボールを失い、それぞれがひとりでプレーした」
posted2021/08/06 16:45
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Toshiya Kondo
イビチャ・オシムに電話をしたのは、東京五輪男子サッカー準決勝・日本対スペイン戦が始まる50分前だった。東京五輪については、プレスパスを取得できなかったこともあり、仕事をする気はほとんどなかった。大会前のテストマッチは男女ともにほぼすべて取材したものの、それで自分の五輪は終わりだと思っていた。そうであるから、イビチャ・オシムやフィリップ・トルシエが、日本五輪代表のほぼすべての試合を見ることが可能だったことが後に分かっても、彼らから話を聞くという発想は端からなかった。
だが、その気になればかなりいろいろ仕事ができたと思ったのは、男子グループリーグ最終戦の日本対フランス戦の前日だった。それでも仕事モードになかなか切り替わらず、トルシエに電話したのが日本対スペイン戦の小一時間前、連絡がつかずにオシムに電話したのがその直後だった。
電話口に出たアシマ夫人の声は溌剌としており、それだけでオシムの健康状態が悪くないことがうかがえる。クロアチアのアドリア海沿岸に2週間ほど保養にいき、40度近い暑さのなかであるものの、のんびりと過ごせたという。グラーツに戻って少し涼しく、ほっとしているということだった。
ただ、五輪に関しては、誰からも情報が得られずにここまで日本の試合はひとつも見ていないという。どのテレビ局で放映されるのかと尋ねられても私には答えようもなく、またそれがわかったとしてもオシムが起きて試合を見られるのかという根本的な問題があったが、試合が終わったころにまた電話をすると言っていったん話を打ち切った。
嘆きのオシム
それからほぼ3時間後、劇的な敗戦の後に気持ちを落ち着けて電話をすると、アシマ夫人はすぐにオシムに繋いでくれた。そして試合を視聴したオシムの口から発せられた言葉は、私の想像とはまったく異なるものだった。
攻撃におけるコレクティビティの欠如。オシムが最も嘆き、批判した論点は、恐らく日本人の誰もが持ち得ない視点からのものだった。日本とスペイン。両者の力関係を考慮すれば、森保一監督の戦術や戦略、少ないチャンスをモノにしようとする日本攻撃陣のアタックは、ごくごく自然なものと日本人には映る。
では、より客観的に見たときに、日本の攻撃はどうだったのか。森保が目指す組織的でスピーディーかつコレクティブなサッカーを体現していたのか。あるいはゆったりとパスを回すスタイルで、スペインを崩すことはできなかったのか……。もちろんオシムの言葉のすべてが正解ではない。だがオシムがネガティブに感じた理由を考えることで、私たちは日本サッカーのこれからの方向性を見出すことができる。まずはその前編から。(全2回の1回目/#2はこちら)
――元気ですか?
「君はどうだ?」
――残念な気持ちですが満足もしています。