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“優勝チームに名捕手あり” 阪神・梅野隆太郎は何が進化した? 矢野監督に通ずる「自分が打ったことよりも」の精神
text by
豊島和男Kazuo Toyoshima
photograph byKYODO
posted2021/07/27 11:02
ホームランを放ち、「U2」ポーズでベンチに戻る梅野隆太郎。今季は正捕手として82試合で先発マスクをかぶる
福岡大4年時には大学日本代表の主将で4番も経験。「打てる捕手」として13年のドラフト会議で4巡目指名を受けて入団。ルーキーイヤーの14年から92試合に出場。金本知憲監督時代の18年には自己最多132試合に出場するなど、プロの世界で捕手としての実績を積んでいっていた。
梅野が正捕手への成長過程にあった当時、金本監督「一番は(走者を)刺せる捕手。そして打てる捕手」と肩の強さ、スローイングの正確性と打力を評価して積極起用していた。
プロ野球の歴史をひもとけば、野村克也氏に象徴されるように森祇晶、田淵幸一、木俣達彦、伊東勤、古田敦也、谷繁元信、阿部慎之助と、歴代の名捕手と呼ばれる選手たちの多くは高い打力を兼ね備えていた。ただ、当然ながら名捕手の条件は打力だけでないことも事実。スローイング、ブロッキング、リード、フレーミングなど守りにおける数多くの高度な技術を要する。
「キャッチャーはグラウンド上の監督。守りにおける監督の分身」
これは生前、野村氏が捕手の特殊性を説いた言葉である。その野村イズムを伝授された1人が矢野燿大だ。現役時代に野村氏に直接指導を受け、球界を代表する捕手へと成長。指導者に転身後も原点には「野村の教え」があるだけに、捕手を見る目は厳しかった。
矢野監督が貫いた「日替わり捕手制」
監督就任2年目の昨季には物議を醸した用兵があった。
開幕カードですべて先発捕手を変更。第1戦は梅野、第2戦は原口文仁、第3戦は坂本誠志郎を起用した。結果は振るわず、巨人との開幕カード3連戦全敗は球団史上初の屈辱となった。当然、多くの疑問の声は飛び交ったが、矢野監督はそれでもシーズンを通して「日替わり制」による捕手併用を貫き通した。
コロナ禍にあって開幕延期による過密日程となった20年は120試合制だった。そのうち梅野隆太郎は86試合、坂本は24試合、原口文仁は10試合に先発出場。「日替わり捕手制」は競争の一環であり、将来のチームを担う真の正捕手を選定する1つの手段だったかもしれない。
ただ、梅野に正捕手としての物足りなさを少しは感じていたことも事実だろう。矢野監督は昨シーズン終了後に併用制を敷いた真相を明かしていた。