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“優勝チームに名捕手あり” 阪神・梅野隆太郎は何が進化した? 矢野監督に通ずる「自分が打ったことよりも」の精神
text by
豊島和男Kazuo Toyoshima
photograph byKYODO
posted2021/07/27 11:02
ホームランを放ち、「U2」ポーズでベンチに戻る梅野隆太郎。今季は正捕手として82試合で先発マスクをかぶる
「(優勝した巨人も)打順、メンバーがめまぐるしく代わるし、ソフトバンクだってそう。巨人にはずっと負け越していたし、変わらない勇気も必要だけど、変える勇気も必要だと。(また)投手との相性、打つ方もみんな(3選手とも)結果を出していた。隆(梅野)を安心させるというよりは、新しいことが生まれる方がラッキーなんじゃないかと」
今となれば「併用制」は梅野に対する無言のメッセージだったとも解釈できる。
梅野はそれに応えるように、昨季は捕手として球団初となる3年連続でゴールデングラブ賞を獲得。名誉も手にして迎えた今季は前半戦で82試合に先発出場(途中出場1試合)。欠場は休養を理由とした1試合だけだった。まさに正捕手の地位を確立したと言っても過言ではないが、昨季と今季の成績を比較してもそこまで大きな変化もあまり見られない。ただ、1つだけそれがあるとすれば、精神面の充実ぶりだろう。
「(昨季の開幕2戦目でベンチスタートとなったときは)悔しかった。言葉では表せない。(ただ)甘くないとも痛感した。何も言わせないぐらいの存在になりたい」
敗北感を味わった当時の心境を吐露する一方で、屈辱的な悔しさを糧に捕手としての進むべき道を決めたのだった。
紳士な男が珍しく“塩対応”
今季の梅野は昨季の経験で確実にひと回り成長した。その“変化”を象徴する出来事があった。
5月14日の巨人戦(東京ドーム)。打っては決勝打、守りでは懸命なリードで2-1の接戦を制し、巨人戦の連敗を「2」で止めた。対戦成績も4勝3敗と、勝ち越しを決めた一戦でもあった。
ただ、試合後にヒーローは一言だけ発して姿を消した。
「みんながつないで作ってくれたチャンスで、何とかヤギ(青柳)を援護したかった」
実は取材を試みた報道陣の質問が打撃のことだけだったことに珍しく顔色と態度を変えた。日頃から足を止めて丁寧に取材に応じる紳士が、この時ばかりは別人と化したのだ。ただ、無言で立ち去ることはせず、最低限の責務だけは果たした。それが多くを語らなかった事の真相だった。
そこにこそ、正捕手としての姿が見えた。
「自分が打ったことは、どうでもいい」
本当は、そう言いたかったのだろう。チームの勝敗を背負う正捕手としての責任感。
「打ったことより、守りのことを聞いてほしかったんだと思います」
近い関係者はそう言っていた。
明らかに今季は自覚と使命感が増した。それが態度にも表れたのだと想像する。事実、指揮官は特に梅野の“守り”を評価するコメントが増えている。
「(梅野は)守る方でも打つ方でも大きな役割の仕事をしてくれて助かってます」(矢野監督)