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「塁がファーストオプション」渡邊、エドワーズらが語る、エース八村の最高の“生かし方”とは? オリンピックで“格上”相手に日本が勝つための〈3つのポイント〉
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byJIJI PRESS
posted2021/07/24 11:01
7月18日のフランス戦で攻め込む八村塁。五輪本番でもいかに八村を生かすプレーが出来るに注目だ
渡邊がその答えを教えてくれる。
「自分の所属チームと同じ役割をする選手は、代表ではほとんどいません。ひょっとしたらゼロかもしれないです。
僕も(トロント・)ラプターズではハッスル要員というか、まずはそこをやっていれば……という選手で。でも、代表だとリーダーシップを発揮して、オフェンスもディフェンスも全部、絡んでいかないといけません。塁もウィザーズでは3番目のオプションだと思うんですけど、代表ではファーストオプションです。国内のBリーグでいつも頑張ってくれている選手たちも自分のチームではファーストオプションだと思うんですけど、代表では全然違う役割を与えられています。
W杯の時は正直、それをみんなが理解していなかったかなと。それに比べて、今は、全員がそこをしっかり理解しているので。その違いというのはすごく大きいかなと感じています」
八村の“スキル”を活かすために必要なこと
この言葉は、八村の存在意義を理解するのにも役に立つ。八村は日本人として初めてNBAのドラフト1巡目指名を受けたのを筆頭に、いくつもの新しい道を切り開いてきた。ただ、彼はまだ23歳で、チームで2番目に若い選手である。それに、渡邊のようにサービス精神を交えながら、周囲に配慮するのが得意なタイプでもない。
八村はキャプテンタイプではなく、エースタイプなのだ。
期待されるべきはプレーでチームを引っ張ること。そこにつきる。実際、合流初戦となったベルギー戦で24得点、フランス戦でも19得点と、いずれもチームトップを記録している。リーダーシップを発揮する作業は得意な選手に任せ、八村にはコート上での仕事に集中させてあげる。それは日本が勝つために必要なことだ。
2年前のW杯では戦術以外のあらゆる部分でも八村に依存している感じがあった。そうした状況との因果関係を証明することはできないが、初戦の前に発熱に悩まされ、初戦の午前中に行なわれた練習を休んだこともあった。当時21歳だった彼に、過剰なまでの期待とプレッシャーがかかっていたのは事実だ。
八村がこのチームにいる意義をもっとも的確に語れるのは、バスケの母国アメリカで生まれ育ち、帰化が認められたことで昨年から日本代表の一員となったギャビン・エドワーズだ。
「塁はスキルがとてつもなくある選手なので、そういう選手はコートにいるだけでみんなの自信になります。僕たちはチームとして、すごくスペーシングを大事にしています。なので、積極的にアタックを狙い、そこで相手のディフェンスが寄ってきたら、外にいるチームメイトにパスをするというシステムです。塁が入ったことで(相手が引き寄せられるから)より、スペースが広くなったと感じますね」
2年前とは違う。日本人のなかでは抜きん出ているシュートやリバウンドの「スキル」で貢献することに集中すれば良いのだ。
2年前のW杯では八村に頼りすぎてしまった
思えば、2年前のW杯では5連敗した原因は大きく2つあった。
〈八村に頼りすぎてしまったこと〉
〈直前で戦い方を変えたことで、選手の心に迷いが生じたこと〉
W杯予選では最後に8連勝して本大会出場を決めた日本だったが、連勝中は激しいディフェンスから、多くの速攻を繰り出していくスタイルだった。
ただ、フリオ・ラマスHC(ヘッドコーチ)は大会直前に方針を変更。攻守のペースを落として、日本と対戦相手との本来の力の差が表われないような戦い方で挑んだ。
しかし、これは選手から積極性を奪うとともに、八村への依存度を高めてしまった。ペースを落としたことで、速攻以外のいわゆる「セットオフェンス」をしかけることが多くなった。これは相手の守備が整っている状態での攻撃だ。その状況で、対戦相手は日本のエースである八村の良さを徹底的に消してきた。八村はボールを持たせてもらえないような場面も目立った。そして、日本は良いところなく大会を終えることになった。