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「後悔などあろうはずが」イチロー・藤沢周平の言葉と菊池雄星の自問自答 15歳で出会った“恩師”からの「まっすぐ立つ」の教えとは
text by
塩畑大輔Daisuke Shiohata
photograph byKyodo News
posted2021/07/15 17:02
2021年オールスターの舞台を味わった菊池雄星。地道な取り組みが実っていた
足の疾患を専門とし、立ち方、歩き方を整えることで根本的な改善をはかる研究を続けている。
「まっすぐ立てているか」を見定められるだけではない。どうしたらまっすぐ立てるようになるのか。治療家だけに、改善法の引き出しは多かった。
「その道の本当のプロ、いるもんだなと」
目の前を数メートル歩いただけで、菊池用のメニューを提示してくれた。両足を縦方向に揃え、前屈をしては少しずつ位置関係をずらす。一方の足で立って、浮かせた反対の足を細かく動かす。身体に「まっすぐ立つ」をたたき込むための反復練習だ。
さらには、その感覚を日常的に養うため、インソールも特別につくってくれた。
これも数メートルの歩きを見ただけで、しつらえてくれた。反復練習が進み、立ち方や歩き方が変化すると、それにあわせて新調もしてくれる。
スパイクやトレーニングシューズ用だけでない。普段使いのスニーカーやスーツ時に履く革靴に入れるものまで準備してくれた。
感銘を受けることばかりだった。菊池はしみじみと言う。
「その道の本当のプロ、いるもんだなと。絶対音感じゃないですけど、立ち方、歩き方をパッと見ただけで、すべてが分かってしまう」
オフの間、店で気に入った靴を見つけても、試し履きは最低限に抑えた。違うインソールの感触が足裏に残っては、取り組みが台無しになってしまう気がしたからだ。
「きちんと足の裏のセンサーが動いている」
「やればやるほど、まっすぐ立つことの難しさを感じます」
そう言って菊池はため息をつく。だがそう感じるようになったことこそが、前向きな変化だった。
「なかなかうまくいかないですけど、でもきちんと足の裏のセンサーが動いているな、というのを感じながらやれてはいて」
自分は本当にまっすぐ立てているのか。アメリカに同行している伊藤健治トレーナーとの二人三脚で反復練習を重ね、重心位置のズレを察知することができるようになってきた。
スキージャンプの高梨沙羅選手のエピソードを聞いて、深く共感したりもする。彼女は競技直前、必ず足裏を自分でマッサージして、最も多くを感じ取れる硬さに調節をする。時速90キロの助走の中でも、助走路の状態を足裏で読み取ったり、踏み切り位置を垂直方向に正確に蹴ったりするためだという。菊池は深く、何度もうなずく。
「すごくわかります。疲れてきたりして足の裏が硬くなると、まっすぐ立てているかが分からなくなる。僕も足裏の柔らかさは保っていたい」
実際、まっすぐ立つドリルの前には、足裏マッサージを必ず入れるようになった。