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「後悔などあろうはずが」イチロー・藤沢周平の言葉と菊池雄星の自問自答 15歳で出会った“恩師”からの「まっすぐ立つ」の教えとは 

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塩畑大輔

塩畑大輔Daisuke Shiohata

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photograph byKyodo News

posted2021/07/15 17:02

「後悔などあろうはずが」イチロー・藤沢周平の言葉と菊池雄星の自問自答 15歳で出会った“恩師”からの「まっすぐ立つ」の教えとは<Number Web> photograph by Kyodo News

2021年オールスターの舞台を味わった菊池雄星。地道な取り組みが実っていた

ロスをなくそうとしたら、自然と球速が上がった

 小島さんのアドバイス通り、オフはほぼ「まっすぐ立つ」の修練で終わった。

 2021年2月。

 メジャー3度目のキャンプで、菊池は今までと違う感覚を味わうことができた。

「そんなに腕を振っているつもりじゃないけど、球がいく」

 オープン戦序盤から、球速は150キロ台後半に達した。実戦のマウンドの上でも、きちんとまっすぐ立てるのか。まだ手探りの部分もあったが、早くも球威に変化が出てきた。

「球速を上げようというつもりはなくて。ただ、ロスをなくそうとしたら、自然と球速が上がった。ずっと身体は鍛えてはきたけど、そこから効率よく出力を生むというところが足りていなかった。あらためてそう思います」

 ストレートの球速が160キロに迫ってきたことで、ほかのボールも生きてきた。渡米当時は140キロ台のスライダーを投じていたが、代わって150キロを超えるカットボールと、曲がり・落ち幅がより大きい130キロ台のスライダーが武器になった。遅ればせながら、メジャーで活躍するための準備がようやく整ってきた。

 そんな手ごたえを、感じ取りつつあった。

ライオンズの時も「今年1勝もできなかったら」と

 一方で、不安がないわけではなかった。

「開幕前はいろいろ考えます。ライオンズの時も、ふと『今年1勝もできなかったらどうしよう』って思うことはありました」

 ましてや、今年は勝負の年だ。メジャー3年目。舞台にも慣れ、自分らしいボールも投げられるようになった。だからこそ、結果が問われる。

 戦える準備は、確かに整った。でも、準備がギリギリのところで間に合っただけなのかもしれない。

 公式戦開幕直前。開幕5戦目だった先発予定が、同2戦目に繰り上がった。

 4月2日、本拠地でのジャイアンツ戦。

 シーズンを占う初登板で、菊池は6回を投げ3失点。メジャー自己最多タイの10奪三振という好投をみせた。白星こそならなかったが、不安を払拭するには十分な内容だった。

理想的にいった球は、まだ1球もない

 以来、菊池は過去2年とは比較にならない安定した投球を続けてきた。

 16試合に先発し、6回以上を投げて自責点3以内の「クオリティースタート」を達成すること11回。イニングあたりに出す走者数も1.09と、数字も明らかに良くなった。

 オールスターに選ばれるべきだ。

 監督、メディア、ファン。あらゆる方面から推される形で、菊池は目標とした舞台にたどり着いた。

「でも、まだまだですよ。まっすぐ立つことひとつとっても、できたりできなかったり。まっすぐ立つところから、リリースまですべて理想的にいった球というのは、まだ1球もない気もしています」

 だからこそ、楽しいんですけどね。

 菊池はそう言って笑う。

「まだスタートラインに立っただけ。メジャーリーグでやっていくためのベースの部分しかやれてない。ただ、それができたら次のステージがある。まだまだ僕は速い球が投げられるし、コントロールもよくなる。ロスを無くしていけば、ケガなく継続して活躍していける。

 そういう意味でも、あきらめずにやってきて良かった。今はそう思います」

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