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「後悔などあろうはずが」イチロー・藤沢周平の言葉と菊池雄星の自問自答 15歳で出会った“恩師”からの「まっすぐ立つ」の教えとは
posted2021/07/15 17:02
text by
塩畑大輔Daisuke Shiohata
photograph by
Kyodo News
2020年秋、シアトルの自宅。
マリナーズの菊池雄星はひとり、パソコンのキーボードをたたき続けていた。
山形にある藤沢周平記念館から、寄稿の依頼があった。愛読してきた時代小説「蝉しぐれ」について書いてほしい、というものだった。
主人公は切腹を命じられた父との最後の面会で、何も話すことができなかった。後悔にさいなまれる彼を、周囲は励ます。
「人間は後悔するように出来ている」
「後悔しない人などいない」
これを受けて、菊池はつづる。
「この本を読み終えた時から、『後悔』についての自問が始まった」
自らも父をがんでなくした。育ててくれた感謝を伝えきることができなかった。
「確かに後悔は『するように』出来ているのかもしれないと思った」
そう書き進めながら、一方で同じマリナーズに籍を置くイチローのことも思い浮かんだ。敬愛し、憧れる先輩は、引退会見でこう言い切った。
「後悔などあろうはずがない」
キーボードをたたく手を止め、思いにふける。いったいどうすれば、そういう境地にたどりつけるのだろうか。
2年目に向けての手がかりを得た中で
その年のシーズンオフ。菊池にはどうしても、会いたい人がいた。
メジャーに行くことがゴールになってしまっていたから、活躍ができなかった。そう総括するメジャー1年目が終わったところで「オールスター出場」という目標を立てなおした。2年目。コロナの影響で登板機会を重ねられなかったが、その中でも手がかりは得た。日本にいるころから、そういう意識でやっておけばよかった。少しだけ、後悔がよぎった。
その時にふと思い出した。
ずっと以前から「メジャーのオールスター」という目標を示してくれていた人が、いたではないか。
「雄星、真っ直ぐ立ててないよ」
巨人などでプレーした元投手、小島圭市さん。
現役引退後はドジャースのスカウトを務めていた。