フランス・フットボール通信BACK NUMBER
生後18カ月で最初のスプリント、学業でも小学3年で飛び級…ムバッペが語る半生「早熟は苦痛でしかなかった」
text by
パスカル・フェレPascal Ferre
photograph byL’Équipe
posted2021/07/11 17:02
今季限りのPSG退団が噂されるムバッペ。実績も存在感も抜群だ
「PSGのスタッフといろいろ調べた。僕が少し減速すると時速33~34㎞ぐらいになるけど、それでも他の選手のトップスピードを上回っている。僕はひとり別次元にいるけど、他の選手たちとも連携していかねばならない。僕がゴール前に到達しても、パートナーが追いつくまで待たねばならないときもあるし、自分のスピードが孤立状況を作り出すことも多い。そうならないために、スピードをうまくコントロールできるようになった」
――判断を下すときに、脳はどんなふうに働いていますか?
「その点でも僕は進歩したと思う。正しい選択ができるようになり、以前よりチームと協調している。ドリブルがうまくいくと、パスを出すよりもさらにドリブルを続けて、派手なパフォーマンスを成し遂げる誘惑に抗いがたい。でも僕も、自分の欲望に従うのではなく、プレーの流れを感じて、何をすべきかをわかるようになった。サッカーは本能だけのスポーツではない。考えることもサッカーでは求められる」
早熟と見なされることに苦しんだ過去
――そうした頭の働きと、子供のころから顕著だった能力をうまく結びつけることはできましたか?
「できていると思う。早熟は武器だと多くの人は考えている。僕は子供時代のほとんどを、早熟と見なされることに苦しんできた。人から理解されないし、人と違うのが何を意味するのかよくわからない。違いを力に変える以前に、違いがあることに苦しんだ。他人と異なる自分を容認してうまくやっていく以前に、まずどうして違うのかを理解する必要があった」
――違いをコントロールするのは難しかったですか?
「ずっと小さい頃は、僕も人と違わなかった。ドリブルばかりしていたし、他人と同じように考えてプレーしていた。ただ、競走では誰にも負けずに規格外だったから、ちょっとクレイジーと見られてもいた。そんな風に言われたら子供は誰だって苦しむ。幸い僕は、自分自身を理解したときから、苦しみから逃れることができたけれども」
――しかしどうして苦しむのですか?
「それは僕が人とどう違うかを、誰もちゃんと説明できないからだ。誰も僕を理解しているようには見えなかったし、自分は独りぼっちだとずっと感じていた。思い出すのは早熟な才能を見出すためのテストを(小学校3年生時に)受けて飛び級をしたことだ(註:少年時代からムバッペは、学業成績が極めて優秀だった)。テストの後、誰も何も言わなかったし何の説明もなかった。途方に暮れるばかりだった。説明がないから、何か隠し事があるのではと疑うようになった。本当に苦しかった」