テニスPRESSBACK NUMBER
3カ国語で答えるフェデラー、言い返すシャラポワ…大坂なおみが拒否した「記者会見」では何が起きているのか?
text by
内田暁Akatsuki Uchida
photograph byAFLO
posted2021/06/10 11:03
大坂なおみが拒否したことで注目された“記者会見”。これまで選手と記者はどんなやり取りをしてきたのか?
「スポーツにおいて、物語を伝えることは、凄く大切だと思うんだ。語るべき事はとても多い……例えば、選手たちはどのような境遇から出てきたのか? どんな場所で練習をし、どんな人生経験を経てきたのかなどをね」
フェデラーが考える通り、会見の席などで彼が語る自身やライバルについての言葉は、テニスという競技の深遠やアスリートたちの人間性を浮き彫りにし、物語として綴られ人々の心を打ってきた。
選手とメディアの交流といえば、元世界1位のマルチナ・ヒンギスの会見が思い出される。
ヒンギスが記者に「以前の私と復帰後は、何か違う?」
ADVERTISEMENT
天才少女と呼ばれ続けたヒンギスは、10代で頂点を極めた末に、22歳にしてバーンアウト的にツアーを離脱。3年後に復帰しトップ10には返り咲くも、かつての地位には戻れずにいた。
その復帰の年の夏、彼女は敗戦後の会見で、完全復調できずにいるもどかしさを口にする。そして、司会者が「終了」を告げた後に、おもむろに会見室の記者たちにたずねたのだ。
「あなたたちの目には、どう映っている? 以前の私と復帰後は、何か違う?」
元世界1位からの逆質問に、会見室に走る緊張。そのとき口を開いたのは、米国のベテラン記者、マット・クローニンだった。
「お母さんに告げ口はしない?」
まずは軽くジョークを返し、そして明瞭に続ける。
「以前に比べると、バックハンドの逆クロスが少なくなったと感じる。以前のあなたは、そのショットをとても効果的に使っていた」
この助言を、彼女がどの程度真剣に受け止めたかは分からない。ただ、記者が選手を見るということは、選手が記者を見ているということでもある。一定の信頼が生まれれば、関係性は双方向的に発展しうるという好例だった。