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初めて“メッシがいないチーム”でCL優勝なるか… 進化するグアルディオラの戦術は“サッカーの偶然性”をも支配する?
text by
吉田治良Jiro Yoshida
photograph byGetty Images
posted2021/05/28 17:01
4シーズンで三度目のプレミア制覇を成し遂げたペップ。勝利に一途なリアリストの表情は年々その彫りを深くしている
ゼロトップ、偽サイドバック、リベロ型GK、ポジショナルプレー、5レーン理論……。言語化の天才は、不変とも言えるみずからのフットボール哲学──ボールを握り、ゲームを支配する──をベースにしながらも、戦術の革新を止めようとしない。
もちろん、この稀代のインフルエンサーに触発され、世界中の指導者たちが彼のやり方を模倣し、応用し、あるいは対抗策を講じることで、フットボール界全体の進化が促されたのは間違いない。
けれどその一方で、本来エモーショナルなゲームだったはずのフットボールが近年、より一層ロジカルゲームの色彩を濃くしている事実は、きっと否定できないと思う。
ペップの発明した戦術ワードが錦の御旗となる
クイズ王でフットボール・フリークの伊沢拓司さんが以前、こんなことを言っていた。
「瞬間、瞬間にインプットされるものが多い上に、22人という選手の数に対してピッチが広すぎるフットボールは、どうしても複雑なゲームになってしまう。だから毎回、結果もバラつくんです」
そうしたバラつきを、言い換えれば偶然性の占める割合を極力減らし、勝利の確実性を高めようというのが、リアリストでもあるペップが戦術に傾倒する理由なのだろう。偶然性が薄まれば、フットボールは当然ロジカルになる。
そして多くのジャーナリストたちは、もはや感情でフットボールを語ろうとはしなくなった。大切なのは4-3-3や3-5-2といった数字の配列であり、選手が流した汗の量や天才的なひらめきよりも、どのレーンを攻略したか、どの位置でプレスを掛けてボールを奪回したかを重んじる。
選手の生の声を拾いにくくなったコロナ禍の時代においてはなおさら、ペップの発明した、あるいはアレンジした戦術ワードが錦の御旗となるのだ。
もっともペップ本人は、自分がこの世界にどれほどの影響を及ぼしているかなど、考えてもいないだろう。とにかく勝ちたいという強い想いから、毎年のように新しいアイデアを生み出し、フットボールにイノベーションを起こし続けているだけなのだ。