甲子園の風BACK NUMBER
「女子野球が広がることで男子野球の仕組みも…」静岡初の女子高校野球部 監督・校長が取り払う先入観と固定観念とは
text by
間淳Jun Aida
photograph byTokai University Shoyo Shizuoka High School
posted2021/05/27 17:00
東海大静岡翔洋高校の女子野球部メンバー
「笑顔で日本一」をモットーに
他にも、男子野球部の指導では考えられなかったことは「笑顔」。チームは「笑顔で日本一」をモットーに掲げている。練習中は明るい声が響き、柔らかい表情が溢れている。給水の時間には鼻歌が聞こえてくる。ノックをするコーチには「まぶしくてフライが取れませーん」と伝え、サングラスを借りる選手もいる。
指揮官は「礼儀や挨拶をしっかりするのは男子も女子も同じ。ただ、笑顔を失うような指導をしないのが大前提。『野球とはこういうもの』、『男子がこうだから』と押し付けるような指導にならないようにしている」と説く。
固定観念を持たない――。
弓桁監督が抱く女子が野球をする意義の1つだ。スポーツを通して目標に向かって努力する大切さや、社会性を身に付けるのは男子も女子も変わらない。だからこそ、年齢を重ねると女子が野球を続ける場所が少なくなることに疑問を呈す。
「女子だからあきらめる」は可能性を狭める
「『女子だからあきらめる』というのは可能性を狭めることになる。若い時の経験や考えは社会に出てからも影響する。固定観念で挑戦をやめたり、可能性をつぶしたりしてほしくない。むしろ、男子も女子も同じスポーツを経験することで、思いやりや想像力が育まれるのではないか。女子野球が広がることで、今までなかった視点や考えが生まれ、男子野球の仕組みも良くなると思う」
また、女子スポーツは親子の会話を増やすと指摘する。
苦労している父親が少なくない思春期の娘との関係。弓桁監督は「女子が野球をやっていると、父親とキャッチボールをする。スポーツが共通の話題になる。親が子どものスポーツのために早起きしたり、競技の勉強をしたり、頑張って仕事をしたりする姿を子どもたちは見ている。自然と感謝の気持ちが芽生える」とスポーツの効果を感じている。
指揮官とともに野球部創部に尽力した村上校長も、スポーツは固定観念や先入観を取り払い、1人1人の可能性を広げると考えている。
「男子と女子では体力や走力、競技の迫力は違う。ただ、男子のイメージが強いスポーツを女子がやりたいことは当然ある。女子がやりたいことを主張して、それを実現できる環境が社会には必要」
東海大静岡翔洋に女子ラグビー部や柔道部があるのは、こうした考えからだ。
さらに、村上校長は女子野球部が学校全体に好影響を及ぼしていると話す。