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「肉は切らせずに骨を断つ」プレミア対決を制しチェルシーは2度目のCL制覇なるか 2012年に通じる運命と相違点とは
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2021/05/16 17:01
プレミア対決となった今季のCL決勝。2度目の戴冠を狙うチェルシーに勝機はあるか
攻撃志向のディマッテオが堅守速攻の「モウリーニョ流」に
CLでのチェルシーに対し、「ひょっとすると」という声は以前から聞かれた。
ただし、チームの実力というよりは「運命」に基づく見解だ。トップ4争いでの後退、控え組の不満によるムード悪化による若手監督解任という背景が、最終的には悲願の優勝に至った2012年の再現を思わせるからだ。
準々決勝以降の抽選が行われた3月後半には、運命の色がさらに濃さを増した。
9年前のチェルシーはアンドレ・ビラスボアスの後任、CL16強第2レグが初陣となったロベルト・ディマッテオの下、8強ではベンフィカ、4強ではバルセロナを下して決勝へと勝ち上がっていた。同じく、今季のチェルシーもポルトガル勢の次はスペイン勢との対戦という決勝へのルートが見込まれる抽選結果となったのだ。
しかしながら、実際に準々決勝でポルト(計2-1)、準決勝でR・マドリー(計3-1)を下したトゥヘル体制のチェルシーに優勝が期待される最大の理由は、過去との違いにある。
2008年の決勝進出は、ジョゼ・モウリーニョの後を受けたアブラム・グラントが前任者の作り上げたチームの“自動操縦”で辿り着いたと言える。前回の2012年も、本来は攻撃志向のディマッテオが、主軸が得意としていた堅守速攻の「モウリーニョ流」に立ち返り、守勢を受け入れる覚悟を決めたことによる成果だった。
ガリー・ネビルが「ゼイ・ネバー・ダ~イ!」と絶叫
当時、グアルディオラが率いていたバルセロナとの対戦は、2試合平均のボール支配率が僅か28%。見事に肉を切らせて骨を断った勝利は劇的、かつ感動的でもあった。だが、決勝でもPK戦に持ち込んでバイエルンを下したチェルシーの戦いぶりに、テレビ解説者のガリー・ネビルが「ゼイ・ネバー・ダ~イ(絶対に死なな~い)!」と絶叫したように、最大の勝因は劣勢に耐え続けた「執念」だったと言わざるを得ない。
その点、今季のチェルシーは攻守に果敢で、「肉は切らせずに骨を断つ」とでも言えるようなスタイルを意識し、内容と結果の両立を狙いながら決勝まで勝ち上がってきた。
前体制から攻撃と若手起用への積極姿勢を継承しつつ、守備とムードの改善を実現した就任1シーズン目のトゥヘルには、10点満点を与えてもよい。
R・マドリーとの準決勝は相手にポゼッションを譲ったが、決して受け身だったわけではない。ジネディーヌ・ジダンが3バック採用に打って出たのに対して、チェルシーの3-4-2-1システムは攻守両面で上回った。ベン・チルウェルとセサル・アスピリクエタの両ウイングバックは守備的ではなく、相手をリスペクトする意味の人選だ。