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【73歳に】「革命を起こせや」江夏豊が揺さぶられた野村克也の言葉、王よりも長嶋が苦手だった理由、“21球”にあった怒りと衣笠祥雄の声かけ
posted2021/05/15 11:01
text by
NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph by
Kazuhito Yamada
<名言1>
男にとって「革命」ってのは魅力ある言葉だろ。
(江夏豊/Number999号 2020年3月12日発売)
◇解説◇
剛腕・江夏にとっての「革命」、それは野村克也と出会ったことでのリリーフ転向だった。阪神のエースとして君臨した江夏だったが、チームの和を乱すとの酷な理由で南海へとトレードに。放出は江夏にとって耐え難い屈辱だったが、そこに待っていたのは選手兼任監督の野村だった。
先発完投が花形とされていた昭和の時代にクローザー転向を提案。「革命を起こせや」との野村のメッセージは語り草になっている。
実はこの発言、野村が考え抜いた殺し文句ではなく、会話の終わりに偶然出たものだったらしい。それでも「俺にとっては身に突き刺さる、新鮮な言葉だった」と江夏の心をたぎらせたのだった。
「江夏の21球」にあった秘話
<名言2>
江夏を9回に代えるつもりなんか、サラサラなかった。
(古葉竹識/Number962号 2018年9月27日発売)
◇解説◇
広島と近鉄が戦った1979年の日本シリーズは、第7戦までもつれる大接戦となった。その第7戦の9回裏、1点リードの場面でマウンドに立っていたのが、広島の抑えの切り札・江夏豊だった。ノーアウト満塁の大ピンチを無失点に切り抜け、歓喜の渦ど真ん中で至福の時を迎える。これがかの有名な「江夏の21球」だ。
しかしこの時、当の本人はベンチにいる古葉監督と戦っていたという。原因は、古葉監督がブルペンで池谷公二郎と北別府学の2人を準備させたこと。これを見た江夏は怒ったのだ。
「それよ、オレが頭に来たのは。わざわざ2人も、しかもオレの目の前で……何を慌てとんねん、誰が慌てるんや、バカたれが、という思いやった」
後からこの真相を知ったという古葉は2018年に実現した対談でこう弁明する。
「延長になって試合が長引いたら、江夏のところで代打を出すケースもあるかもしれない。だから身体を動かして準備しとけよって……あの場面で江夏を代えるわけがないし、代えるつもりなんて100%、なかったんです」
ムッとした江夏は、ノーアウト満塁の場面で代打・佐々木恭介にあわやという鋭いファウルを打たれている。江夏は「あれは、打ってもファウルにしかならないボールを投げたんだよ」とその投球を振り返っているが、そこにすかさず駆け寄ったのが盟友・衣笠祥雄だった。
その打球を見た上での“声かけ”だったのかは定かではないが、「ブルペンのことなんて気にするな」という衣笠のひと言で冷静さを取り戻した江夏は佐々木を三振に打ち取ると、次打者・石渡茂のスクイズ失敗を引き出し、広島を日本一に導くのだった。
「自分のことより、オレのことを考えてくれたことが、本当に嬉しかった」(江夏)
「江夏の21球」には多くのドラマが交差している。いまだに語り継がれている理由がそこにある。