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【日韓戦・超ナナメ視点プレビュー】韓国のポルトガル人監督が“日本の未来像”になりうる理由って?
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byGetty Images
posted2021/03/25 06:00
森保一監督とパウロ・ベント監督。日韓両監督の見識を比較しても面白い
「欧州復帰への野心を持つ監督」は日本にとっても……
何が言いたいのかというと、類似点を含みつつ進む両国のサッカー史から考えると、パウロ・ベントのような「欧州復帰への野心を持つ監督」の存在は日本にとっての近未来たりうるということだ。
ベントは04年に35歳で現役引退後、最初のトップチーム指揮は古巣のスポルティングCP(05-09年)だった。ここでクラブ史上初の3シーズン連続でのチャンピオンズリーグ本選出場の実績を残した。すると2010年に自国代表監督にステップアップ。2012年の欧州選手権では4位となり、また2014年W杯代表監督も務めた。
しかし2014年9月の解任後は、険しい道を歩むことになる。クルゼイロ(ブラジル)、オリンピアコス(ギリシャ)ではいずれも1年以内で解雇の憂き目に。さらに2017年12月からは中国の重慶力帆の指揮を任されたが、ここでも成績不振により約半年で解雇に。
2018年8月に韓国代表監督就任後、国内メディアから「中国時代の失敗」について聞かれると、こう反論してみせた。
「私は失敗だと思っていない」
めちゃくちゃ強気。さらに韓国での任期中に「絶対にAマッチデーの機会を逃したくない」という強い意志も伝わってくる。昨年9月、韓国は世界の多くの国が国際Aマッチデーに試合を開催したなかで、国内世論の反発を恐れてか、他国との試合を組まなかった。
しかし、この野心家は諦めなかった。本人の強い要望もあり、フル代表ーU-23代表の「兄弟マッチ」が国内で開催された。なんとしてでも時間を無駄にしたくないのだ。韓国代表でのここまでの成績は27試合で15勝9分3敗だ(ちなみに森保一監督は32試合で21勝5分6敗)。
上位候補にフラれてベントに賭けるしかなかった
では、KFA(大韓サッカー協会)はなぜ彼にオファーしたのかというと……じつのところ、上位候補にことごとくフラれたからだった。当時のKFAの交渉担当者は「会ってももらえない候補もいた」という。それゆえ最後の選択肢として、「若く野心のある存在=パウロ・ベント」に賭けるしかなかった。
これは東アジアの地にあって、日本と韓国の共通の問題だ。欧州との物理的な距離。中国のような莫大な資金が準備できない点も同じ。ましてや近年はアーセン・ベンゲルもそう言ったように、活動時間の短い代表監督は監督経験者には好まれない傾向もある。
となると、日本もこの「欧州のメインストリームに復帰する野心」への選択に賭けなければならない時が訪れうる。日本が韓国よりも長ける「国内リーグでの指導経験を通じ、日本文化に通じる外国人監督」(ジーコ、オシム)でもない、「欧州で実績を残した監督」(アルベルト・ザッケローニ)でもない、新しい選択だ。野心という意味では、かつてのフィリップ・トルシエもそれに近かったが、彼の場合は日本代表監督就任前に欧州での主たるキャリアがなかった。
だからこそ、25日の日韓戦は東アジアの代表チームが「もしかしての近未来」と戦う対戦としても注目を。
コロナ禍で今は苦しい。だけどこの20年ほどの歴史のなかで、今はどういう時なのかと考えるきっかけにもなれば。