甲子園の風BACK NUMBER
“清原・桑田のPLに負けた監督”は63歳となった今…校長兼監督に 「本分は学業。赤点取ったら練習させない」
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakashi Shimizu
posted2021/03/22 11:01
聖隷クリストファーで校長を兼任する上村監督
「校長は嫌だ、といったら指導は続けていいと」
定年1年前に県の公務員を早期退職して2017年に聖隷クリストファーに移り、夏の新チームから監督に就任した。そして20年、校長就任の内示が出る。
「グラウンドに出られないなら校長は嫌だ、といったら、野球の指導は続けていいと」
浜松には"やらまいか"という言葉がある。ためらわずにとにかくやってみる、という意味で、この地方一帯の気質を表す言葉だ。
遠州はホンダの創業者・本田宗一郎、トヨタの創始者・豊田佐吉が出たところ。世界的企業のスズキ、ヤマハ、河合の拠点があって進取の精神にあふれる土地柄だ。上村校長も甲子園の舞台に挑むという、やらまいか精神を実践しているのだ。
校長の1日は8時の打ち合わせから始まる。自宅から学校まで車で40分。間に合うように7時には家を出る。
新聞数紙に目を通し、8時35分からの礼拝はテレビで見守る。礼拝では持ち回りで各先生が講話をするが、頻度は校長が多くなる。
月曜日と金曜日は朝から定例会議。職員会議、聖隷のグループ会議も不定期に組み込まれてくる。コロナ禍で訪問客は減ったが、例年だと部屋のカレンダーはびっしり埋まっており、そのスケジュールは全部、自身で管理する。
また、ありとあらゆる書類が山のように積まれている。
「ハンコは1日に100回は押してる。印鑑省略、その通りになってほしいですね(笑)」
その他にも退学を希望する生徒がいたとしたら、校長として理由を知ろうと動く。生徒を卒業させることは教師の責務であり、経営の根幹でもあるからだ。
「放課後はもう校長はいないと思ってくれ」
7時間授業で16時45分に校長の勤務を終える。
「放課後はもう校長はいないと思ってくれと、言っています」
ここからようやく、監督としての業務が始まるのだ。グラウンドは野球部専用だ。外野の奥にあるマンションも購入済み。いずれ寮生が全員、入る予定だ。学校と寮とグラウンドの三角形での移動。環境は申し分ない。
最近はいわゆる“通い”よりも賄い付きの寮生が増えてきた。部員は現2年が18人、1年が16人。新入生は20人が入る予定だ。
練習を終えて学校を出るのは21時ごろ。「浜商の時は22時まで練習してたから。それに比べれば早くなった」と笑った。