甲子園の風BACK NUMBER
“清原・桑田のPLに負けた監督”は63歳となった今…校長兼監督に 「本分は学業。赤点取ったら練習させない」
text by
清水岳志Takeshi Shimizu
photograph byTakashi Shimizu
posted2021/03/22 11:01
聖隷クリストファーで校長を兼任する上村監督
「本分は学業。赤点取ったら練習させない」
高校野球部ではグラウンドで選手は監督を「監督」と呼ぶのが普通だ。だが聖隷の部員は上村監督を「先生」と呼ぶ。
「浜商は歴代、教師が監督をやってきて『先生』と呼ばれていた。その流れを継いでいる。私は監督と呼ばれたことないものですから」
上村監督はあくまで、教員だ。そこに矜持があるように見える。
教師は子供の将来を請け負い、他の仕事とは役割が違う職種と言っていい。牧師、神主などと同じように"聖職者"と言われるゆえんだ。
見返り不要の聖職ではある一方で、教育は一大産業だ。勉強ができる子供の家庭は裕福な傾向にある一方で、聖隷クリストファーでも一人親の家庭は増えているという。その中で、上村監督は高校野球を志す生徒にこのように伝えているという。
「入試の説明会で『偏差値で行ける学校でうちを選んだなら来なくていい。やりたいことに打ち込むなら、うちの学校は価値がある』、『何かを見つけて欲しい。ここに来ると勉強は厳しいよ』と言っています。赤点取ったら練習させない。本分は学業です。野球は練習をやっても必ずしも勝てないけど、勉強はやればやるほど成績が上がっていく。勉強ほど簡単なものはない」
世間では部活をやっていると勉強の時間がなく、成績が落ちると見る向きも多い。しかし「校長の立場でいうと、それはおかしい」と、こう強調した。
「運動部が悪だと思ってる人がいる。時間の使い方がうまければ勉強はできる。勉強は"勉めることを強いる"と書くが、それでは性に合わない。学習が好き――なんでこうなるのかと、疑問をもって探求すること。それを学校で教えていけたら」
教員には「授業がつまらないから寝るんだ」
教育法だけでなく、教員にも求めるものがある。
「野球部員は授業で寝てる、と言われるけど、授業がつまらないから寝るんだ。先生方には寝させない魅力ある授業をやってくれと、言っている」
理事長などにもバックアップしてもらいながら――学校としての土台を固め、教員の能力を高めることを使命としている。
よく「校長を務めていて大変ですね」と言われるが「担任の方が大変です」と返しているという。そもそも教師の成り手が減り、大学の教員養成系の学部の倍率が下がっているとも報じられる。土日にも働き、いわゆる"サービス残業"は限りなく多いのに、給料は安い。
その中でも部活が弱ければプレッシャーをかけられ、生徒への怒り方を一歩踏み外せば"体罰"だと厳しく批判される現代である。
「中学(の部活)は外部に任せたり、なくなる方向にある。"悪の根源は甲子園"だという人も多い。そういった極論が進んでいくと、甲子園がなくなればインターハイも、部活もなくなるかもしれない。そうなると教員は部活に関わらなくなって、楽になるかもしれない。
私は部活がしたくて教員になった。それだけに個人として悲しい部分はありますが、運営はプロに任せればいいのでは、と思うこともあります。時代が変わるのは、そういうことでもあるので」