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銭湯で『中村憲剛』がゲッツポーズ? 川崎とフロンターレのお風呂愛「ほかのチームなら脱がせたりしない」 

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熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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photograph byTakashi Kumazaki

posted2021/03/21 06:00

銭湯で『中村憲剛』がゲッツポーズ? 川崎とフロンターレのお風呂愛「ほかのチームなら脱がせたりしない」<Number Web> photograph by Takashi Kumazaki

川崎サポーターに愛される「今井湯」。富士山に向かってゲッツポーズを決める中村憲剛を眺めていたら、ついつい長風呂したくなる

「どうせ川崎から出て行くんでしょ」

「川崎はプロスポーツチームがなかなか定着しなくて、子どものころにはプロ野球のロッテが離れてしまいました。その後、Jリーグが誕生するとヴェルディのホームになり、私も若いころ、チケットをもらって観に行ったことがあります。強かったので誇らしい気分でした。でも、大きな試合はいつも国立。2001年に出て行ってしまった」

 フロンターレはヴェルディの陰に隠れるように等々力で活動を始め、やがてヴェルディは東京に去っていった。こうした経緯もあって、当初、松永さんは冷めた目でフロンターレを見ていたという。

「最初のJ1昇格のときも、どうせ出て行くんでしょと。でも、フロンターレは商店街でゴミ拾いをしたり、地域の中でがんばっていて、弱くて人気もなかったこともあって応援しようという気になったのです」

 フロンターレと商店街については、私にも思い出がある。

 2017年の年明け、川崎大師での必勝祈願を取材した私は、その流れで選手の商店街挨拶まわりについていった。私が同行したのは、平間商店街を担当する新入団の家長昭博と登里享平のペア。

 ふたりは花屋やお茶屋、八百屋などを一軒一軒まわり、そのたびに手土産が増えていく。総菜屋では家長がビニール袋いっぱいのもつ煮込みを半ば強引に渡され、表情が凍りついていた。新天地の洗礼を浴びるベテランをエスコートした登里は、苦笑いしながら「これがフロンターレですから」と笑っている。

「いいなあ、こういうの」と思ったことをおぼえている。

「勝ち」が続いたせいで「またか」

 今井湯で朝湯を浴びた私は、南武線に乗って川崎駅を目指した。ケンゴ絵があるのは、今井湯だけではない。川崎駅に近い「富士見湯」にも、いい絵があると聞いたからだ。

 川崎駅から徒歩10分、昔ながらの商店街にたたずむ富士見湯は、古風な銭湯。築70年になる唐破風造りの建物の内部は、18年間の写真をあしらったケンゴ幟が張りめぐらされ、江戸時代の芝居小屋のようになっている。

 この富士見湯では、フロンターレが勝った翌日に限り、 “フロンタレーブルーの湯”を提供している。さわやかなミントの香り、特別に調色した鮮やかなブルーは常連たちにも好評だ。

 しかし、店主の小林啓介さんが苦笑交じりに言う。

「でも去年は勝ち試合が続いたせいでフロンターレブルーの湯ばかりになり、“またか”なんて言う常連さんもいまして。ですから、たまに違う湯にすることもありましたね」

 昨年の記録的快進撃は、銭湯の湯の色も変えたのだった。

【次ページ】 富士見湯に描かれるのは、あのシーン

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