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開幕から負けなし、6試合連続無失点…J1サガン鳥栖の躍進の理由は? 相手指揮官も「選択肢の多さ」に驚き
posted2021/03/23 11:01
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
J.LEAGUE
開幕から負けなし、6試合連続無失点――。
今季のJ1で前評判を覆すような躍進を見せているのが、暫定ながら3位につけるサガン鳥栖だ。ユン・ジョンファン監督時代から受け継ぐハードワークとスプリント力をベースとした「堅守速攻」のイメージが強いが、今年で就任3年目を迎える金明輝監督が構築してきた「攻守において主導権を握るサッカー」がようやく実を結ぼうとしている。
鳥栖の下部組織を率いていた金監督がトップチームの監督に就任したのは2019年。一時的に指揮を執った18年終盤と同じように、成績不振に喘いだルイス・カレーラス監督に代わってチームの立て直しと「J1残留」をシーズン途中に託された。当時は自身が掲げるサッカーとは異なる“現実路線”を選択せざるを得なかったが、見事にそのタスクを成し遂げると、昨季からは<4-3-3>をベースにした連動性の高いサッカーの具現化に着手している。
DFラインや中盤に縦パスを出せる選手を多く配置し、後ろからのビルドアップを構築。さらに両ワイドとサイドバックにスピードと技術のある選手を起用した質の高いショートカウンターは、昨季終盤でも大きな可能性を感じさせていた。
今シーズン導入した<3-3-2-2>
今季はそれに、さらに磨きをかかった印象だ。
システムは新たに<3-3-2-2>を導入。両ウイングバックが幅を取り、そこに生まれたスペースを「2枚」のインサイドハーフと前線の2トップが有効活用し、サイドからだけでなく、中央からも崩していくサッカーへシフトチェンジ。開幕戦こそ、同じフォーメーションを敷いてきた湘南ベルマーレに対して両ウイングバックが起点になれずに苦しんだが、その試合を1-0で勝ち切ったことでチームに勢いがついた。
金監督は開幕戦を終えた後、勝ち星に浮かれることなくチームに修正を施した。そのキーとなったのがMF小屋松知哉のスタメン復帰だった。
激しいアップダウンを厭わない小屋松はインサイドへの突破や味方との連動に長ける技能的なスピードアタッカー。彼が左のウイングバックに入ったことで、3バックの“左”で定位置を掴んだDF中野伸哉の特長を最大限に引き出すことになった。
飛び級招集の17歳、中野との左サイド
先日のU-24日本代表にも飛び級で選出された17歳の本職は左サイドバックである。小屋松同様に高い運動量を誇る中野は、ボールの寄せの質、ボールを奪うタイミング、そしてスペースを埋める守備力長けている一方で、左足からのクロスの精度も高い。中央へ切り込む小屋松のポジションを見ては、果敢に左サイドを駆け上がっていく。中野が大きく幅を取り、その間を小屋松が動くことで、鳥栖は中盤の敵陣で数的優位を作りやすくなったのだ。