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「命懸け」「アリ地獄」でも藤井聡太二冠は“39勝1敗”… 中村太地七段が語る将棋「順位戦」の恐ろしさと重み
posted2021/03/15 17:15
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by
Kyodo News
第79期順位戦、私は今期B2で戦い、最終的に6勝4敗の成績で終えました。
最終局が藤井聡太二冠(王位・棋聖)との対局で、ABEMAでの中継があって注目してくださった方も多かったと思います。その中で力及ばず敗れてしまったことは残念ですが、その藤井二冠との対局で感じたこととともに、棋士にとって「順位戦」が持つ意味合いの大きさを今回は語っていければと思います。
棋士としての“格付け”だからこそ「命懸け」
まずその前に、将棋に興味を持ってくださった初心者の方に向けて、順位戦の簡単な説明から。
順位戦はプロ棋士として年間を通して戦う舞台で、C2、C1、B2、B1、Aとピラミッド型になっています。各クラスの成績上位・下位者には昇級・降級制度があり、A級1位の棋士が名人戦への挑戦権を手に入れるシステム。4月からの名人戦七番勝負は渡辺明名人と斎藤慎太郎八段の対局に決まりました。またA級順位戦の最終局は「将棋界の一番長い日」と呼ばれるほど、例年激しい戦いが繰り広げられます。
この順位戦が棋士としての"格付け"となってきますし、自らのキャリアを大きく左右します。他の棋戦へのシード権などにも大きく影響しますし、何より芳しい成績を残せないままでいると、引退が近づいてくる――それだけに本当に「命懸け」と表現しても過言ではないのです。
昔は「順位戦になると、なぜか強くなる先生」が
ちなみにですが、昔は「順位戦になると、なぜか強くなる先生」が結構いたそうです。私の聞いた話では、他の棋戦だと中盤で少し形勢が悪くなったらあきらめてくれるのに、順位戦では深夜までとにかく粘るとか(笑)。
それは、今よりもさらに順位戦の持つ意味合いが大きかったからこそ、なのでしょうね。棋士のお給料に反映される割合も、昔の方が重要視されていたそうですので。