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野球界の迷信? 「サウスポーvs左打者=投手が有利」はウソだよ…私が“伝説の左腕”安田猛から教わった話 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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posted2021/03/12 17:45

野球界の迷信? 「サウスポーvs左打者=投手が有利」はウソだよ…私が“伝説の左腕”安田猛から教わった話<Number Web> photograph by KYODO

2月20日胃がんのため自宅で亡くなった安田猛さん。通算成績は358試合で93勝80敗17セーブ、防御率3.26

「よく言うだろ、リリースが見にくい左腕とか。右投げは、そういうことほとんど言われんけど、サウスポーの場合は、テークバックでボールを隠せるとか、出所が見にくいとか。はっきりした理由はわからんけど、サウスポーって、ちょっとぎこちないフォームで投げるのが多いだろ。だから、なんとなくボールも見にくい……そう感じてくれるんなら、そりゃあ得だからなぁ、大事にしたほうがええ」

 軽快なテンポの話しぶりが、ヤクルトで15勝、16勝していた頃の、あのちぎっては投げ、ちぎっては投げ……の投げっぷりに、そのまま重なった。

「オレもそうだったけど、なんだか知らんが打ちにくいって、大きいんよ、野球では」

 当時の安田投手は捕手からの返球をもらうと、捕手のサインをチラッ、当時話題になった「乱数表」をチラッ…もうそれだけで、チャカチャカっとクイックみたいに投げ込んでくる。

 スライダーに、「タブチくん」という漫画で有名になったスローカーブ。絵ではボールの横に必ず“ハエ”が飛んでいて、それでいて右打者の胸元、足元を突くクロスファイアーがものすごく速く見えた。

 言われてみれば、あんなに打ちにくいサウスポーもいなかったろう。

「ほら、おったやろ。ウチ(ヤクルト)の安木(祥二)さんとか、中日の松本幸行(ゆきつら)さんとか。タコ踊りしとるようなフォームで、腕が遅れて出てきて、どうにもタイミングがとれん……松本さんなんか、それで20勝しよった」

「A君は体が大きくなれば……」

 映画 『無法松の一生』の小倉からちょっと大分に寄ったあたりで生まれ育った安田さん。思ったことをはっきりおっしゃる方だった。

「スピードガンばっかり頼っとると、そういうサウスポーを見逃す。速くなくたって、バッターやっつければいいんだからな」

 そういう意味では、安田さんって「快速球投手」ですよね……教わっている者の気安さで、そんなことを振ってみた時の、パッと花が咲いたような笑顔が忘れられない。

「ほーよ、そこよ!」

 安田さんは極端な緩急を駆使することから、「技巧派」とか「テクニシャン」とか評されていた。しかし、私には、意表を突くように投げ込まれる安田投手のクロスファイアーのスピードが鮮明に残る。

【次ページ】 「サウスポーvs左打者」は野球界の迷信?

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