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壮絶キャリアを経て“99%不可能な”五輪代表に… 自転車ロードレース増田成幸が“不死鳥”と呼ばれる理由
text by
赤坂英一Eiichi Akasaka
photograph byUtsunomiya Blitzen
posted2021/03/14 17:01
自転車ロードレース日本代表をつかみ取った増田成幸(2020年に撮影)
「増田さん、やりましたよ! 逆転です!」
「よっしゃ! 勝ったぞ! という感覚ではなかったです。終わった、やりきった、とにかく持てる力は出し尽くした。それだけ」
しばし朦朧としていた増田の傍らに、リタイヤしていた後輩のチームメート、鈴木譲が駆け寄ってくる。彼が耳元で叫んだ。
「増田さん、やりましたよ! 逆転です! オリンピックに行けるんです!」
増田はこのレースでポイント3、×係数3で9点を獲得し、283.8点。リタイヤした中根は282点のまま。実に、僅か1.8点の差で、日の丸を背負う資格を奪い返したのだった。
「最後の最後まで頑張れたのは、それまでに大きなケガや病気を経験したおかげだと思います。まだ20代で、それほど苦労もしてない選手だったら、周囲の声にブレたり、コロナ禍に呑まれたりして、もうダメだと自分から諦めていたかもしれません」
五輪では「言葉は悪いけど、漁夫の利を得る」
増田の本当の勝負は、東京オリンピックの開会後、今年7月24日午前11時に始まる。東京・武蔵野の森公園をスタートし、神奈川、山梨、静岡をめぐって富士スピードウェイでフィニッシュする244km。増田はすでにプレオリンピックでショートカットされたコースを実際に走り、その感触を確かめている。
「厳しいコースです。上り坂が多く、長くてキツい。一つ一つの坂に破壊力がある。僕の自転車競技人生の中でも、これは間違いなく最も厳しいコースでしょう」
そう語る増田はもともと、上り坂を得意とするクライマーだ。やはり上り坂の多かったスペインの最終レースを走り抜いた彼にとっては、お誂え向きのコースとも言える。
「これほどのコースは、代表選手が5人出場する強豪国でも、協力し合ってレースをコントロールするしかない。2人しかいないわれわれ日本は、そういう強豪国のレース展開に乗りながら、大集団の力を借りて脚を温存し、言葉は悪いけど、漁夫の利を得る。そういうレース展開にしなければならない」
オリンピックが開催されれば、増田の走りは多くの日本人に勇気を与えるだろう。五輪の本番で、「不死鳥」の戦いを見たい。