相撲春秋BACK NUMBER
大相撲の“3.11” 被災地を訪れた力士たちの涙と誓い
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byShoko Sato
posted2021/03/12 17:02
10年前、大相撲の被災地慰問。横綱白鵬の土俵入りも行われた
四股には「地を鎮めて邪気を祓う」意味があるとされるが、まるで津波を押し返すかのような、気迫漲る不知火型の横綱土俵入りは、神々しいまでの光を放っていたのだ。「横綱、いつもの土俵入りより、せり上がりの時間が長いね……」との、行司の言葉が思い返される。6月の日差しも強い中、1日2回綱を締めて、十の震える大地を踏みしめた白鵬。最終日には、その白い肌を日焼けさせながら、込み上げるものを抑え込むように、こうつぶやいていたのを想い出す。
「大相撲は日本とともにあるというのを、改めて感じましたね……」
5日間の全行程を終えた日、空っぽの大鍋を前に、ひとり安堵の表情を見せていた大男がいた。昭和の大横綱・大鵬の愛弟子で「ちゃんこの達人」と呼ばれ、慰問でのちゃんこ総指揮を執り、大役を果たした世話人・友鵬だ。今、1300枚の写真を見返しながら、図らずもこの10年の長さを思い知ることとなる。この友鵬もすでに故人となり、写真のなかの放駒理事長(元大関魁傑)、巡業部長だった九重親方(元横綱千代の富士)の姿も、今はもうこの世に亡い。角界を去り、新しく第二の人生を歩んでいる力士たちの顔も少なくない。
この5日間で、力士たちは「心技体」の「心」の修行を積み、あの光景を――被災者の笑顔を、心に刻んだはずだった。
十両以上の関取で構成される「力士会」は、この日から10年の長きに渡り、被災した子どもたちに義援金を送り続けることを決めた。
そして今年が、その10年目となる。
(写真=佐藤祥子)