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「なぜ曺貴裁監督のハラスメント問題は起こったのか?」から考える“深刻なサッカー界のメンタル事情”
posted2021/03/04 17:03
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph by
JIJI PRESS
2015年、国際プロサッカー選手会(FIFPro)がある衝撃的なデータを発表している。日本人を含む現役選手607人、元選手219人へのアンケート調査の結果、「現役選手の38%、元選手の35%が、それぞれ過去4週間以内に不安や鬱などの症状を抱えていた」というものだ。アメリカの国内調査では、31.2%という有病率も発表されている(https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_panic.html)が、期間が限定されていて、かつ母数も圧倒的に少ないサッカー界の「38%」という数字は極めて高いと言えるだろう。
ピッチ上でプレーする選手の姿からは、なかなか想像しにくいことだが、なぜ彼らは不安障害や鬱に陥りやすいのか――。精神科医であり、ブラインドサッカー日本代表やコンサドーレ札幌アカデミー、Real Madrid foundation football schoolなどでメンタルアドバイザーも務める木村好珠さんに話を聞いた(全3回の2回目/#1、#3へ)。
「不安障害に陥りやすい」3つの理由
――サッカー選手が一般の人よりも不安障害に陥りやすいのは、どうしてでしょうか。
「個人差もありますし、この統計は本人回答によるものなので一概には言い切れませんが、大きく3つあると考えられます。
1つ目は、『アスリートはそもそも孤独になりやすい』ということ。サッカーはチームスポーツですが、仲間はライバルでもあります。その他、監督やサポーターなど周囲の人から常に評価されるなかで、外的なストレスを抱えてしまうことが多い。2つ目に『イメージ』があります。サッカー選手という職が持つ“強い”イメージを気にして、なかなか周囲に悩みや弱音を吐けない選手も少なくありません。
またこうした不安障害に陥りやすい傾向を抱えながら、サッカーだけではなく、スポーツ界全体として『カウンセリング』という意識がまだ浸透しておらず、そういう場が少ないことも理由の1つと言えます」
――木村先生は、ユース世代のメンタルアドバイザーも務められていますが、Jリーグでもまだメンタルケアへの意識は低いですか?
「私が知っているなかで、精神科医やカウンセラーをチームに入れているJリーグ所属チームはないですね。単発の講義はありますが、メンタルが弱くなっている人のためではなく、むしろ『強気にいくためにはどうすればいいのか』ということがメインだったりします。そこがある意味、落とし穴になっていると思います。
そういう状況があるなか、選手はもちろん監督やスタッフに至るまで、全員のメンタルを整える必要性を感じてくださったブラインドサッカー協会や高田敏志監督は、その意識が素晴らしいと思いました」
サッカー界のメンタル問題は「選手だけじゃない」
――とは言っても「サッカー選手と不安障害」を結び付けられない人は多いと思います。
「統計にも出ていますが、世界的にメンタル問題に悩んでいた選手は本当に多いです。イニエスタもかつて鬱になっているし、ブッフォンもメンタルの問題を抱えていました。元マンチェスター・シティのへスス・ナバス(現セビージャ)も若い時、不安神経症になっています。また、監督やレフリーも例外ではありません」