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ドラフト1位の3年目・DeNA上茶谷大河が振り返る“黄金の1カ月”「あのピッチングを1年間通せれば…」
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph byKYODO
posted2021/01/30 17:02
昨年9月23日の阪神戦では2度目の完封。好不調の波が激しいシーズンではあったが、たしかな成長の手応えを感じている
「僕はストレートとカットボールが軸のスタイルなのですが、まずはカットの質の向上に取り組んだんです。軌道が緩み過ぎないように、どれだけストレートに寄せていくか。あるいは同じカットでも握りや曲げ方を変えるなど3~4種類と幅を広げました」
ストレートの要素が強い140キロ台のカットもあれば、スライダーの軌道に近い130キロ台後半のボール、さらに130キロ前半では縦に落ちる軌道など状況によって使い分けた。
「自分のスタイルを考えると“落ち玉”が必要だと思っていたのですが、スプリットやチェンジアップが思うように使えない状況で、縦に落ちるカットを知ることができたのは大きかったですね。考え方というのか幅が広がりました」
さらに120キロ台のスライダーは上茶谷いわく「カウントの取れるボール」として左打者の大外からストライクゾーンへと滑り込み、またタイミングをずらすカーブを活用するなど意図と示唆に富んだピッチングを構築するに至った。これも素直に意見を採り入れた結果だという。
再浮上した9月。しかし…
そして8月25日に再昇格すると、上茶谷にとって価値ある“黄金の1カ月”が始まる。
まず広島戦を5回2失点、つづく9月1日の巨人戦では6回2失点、そして9月9日の阪神戦では7回1失点で初勝利を挙げる。さらに1試合空けた9月23日の阪神戦ではプロ入り後最多となる144球を投げ、6安打10奪三振で完封勝利を飾っている。力強いストレートと変化球のコンビネーションが抜群のハーモニーを見せ、緩急自在のピッチングで阪神打線を翻弄した。
結果、9月は2勝を挙げ、月防御率は2.61の好成績だった。この内容こそが、冒頭で上茶谷が前年に比べ成長していると述べた所以である。
「9月は戸柱(恭孝)さんの多様なカットのサインにも順応でき、意思疎通できましたね。打たせて取るのか、それとも空振りをさせるのか。ええ、あの期間のピッチングを1年間通すことができれば……」
好事魔多し。上茶谷は完封勝利後、3試合投げ2敗を喫してしまう。輝きは失せ、有終の美を飾ることなくシーズンを終えた。上茶谷は何故そうなってしまったのか首を傾げる。
「9月にできていたことが10月にはできなくなってしまった。例えば右打者に対し、インコースのサインが出ると首を振るなど勝負しきれないところがあったんです。当然、そうなると外のボールも生きない。うーん、1年目もそうでしたが、身体の疲労とかがあったと思うんです……」
「やっぱり前年との大きな違いは……」
今シーズンで3年目となるが、課題はコンディショニングにありそうだ。いかに好調さを維持するのか。あるいは不調であっても、どれだけ引き出しを自分自身に持つことができるのか。そこで上茶谷が昨シーズン中から取り組んでいるのがカットの“対”となるボールである。