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「ジャンプの成功と失敗にどんな違いがあるのか?」羽生結弦が早稲田大学で書いた“3万字卒論”の中身
posted2021/04/15 17:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
初出:「Sports Graphic Number」2021年1月21日発売号〈指導教授が見た学生・羽生結弦「課題を探究して辿り着いた3万字の卒論」〉
昨秋、早稲田大学人間科学部を卒業した羽生結弦。その卒業論文の指導をしたのが、人間科学部教授の西村昭治氏だ。教授の目に学生・羽生はどう映っていたのだろうか。
「最初の出会いは入学前、スカイプでの面接でした。2012年の秋、大会直後のタイミングだったようです。ただ、彼は疲れも見せずしっかり受け答えをしていて、学ぶことへの真摯な態度を感じました。
フィギュアスケートを極めるのであれば、スポーツ科学部の方がいいのではないかと思っていたのですが、フィギュアスケートを構成する身体の動きはどうなっているのかを知りたいと語るなど目的意識がはっきりしていた。なるほど、だから人間科学部なのだと伝わってきました」
忙しい中でも、計数十本の論文を読み込んだ
人間科学部通信教育課程(eスクール)に入学した羽生は授業形式の講義を2年間受講。強い探究心を持って取り組み、他の生徒も見ることができる質疑応答用の掲示板にも、積極的に書き込んでいたという。
必修科目の単位を取り終えると、人間科学部の学生は卒業研究のため、ゼミを選ぶ。羽生は西村教授のもとで学ぶことを決めた。
「ゼミに入る時点で面接などを通じ、卒業論文のテーマの大枠は決定します。羽生さんはフィギュアスケートの動作を解析する研究をしたいという希望を持っていました」
以前、西村教授の元では、フィギュアスケーターの今井遥さんが身体にセンサーをつけて動きを記録する「モーションキャプチャ」技術を用いた研究に取り組んでいた。当時は今日のように気軽に使える技術になっていなかったため、分析できるレベルではなかったという。しかし、技術が進化したこともあって、フィギュアスケーターはどういう動きをするのかデータを取ることが可能となっていた。
指導はカナダを拠点とする羽生に対して、メールやスカイプなどを使って行われた。
「しばらくの間は毎週、テーマに即し、必要な論文などを読んでもらい、レビューしてもらうという課題に取り組んでもらいました。忙しい中でも計数十本の論文の読み込みにきちんと取り組んで、先行研究や分析の手法について時間をかけて学びました」
「完成度が高く、あまり手を入れるところがなかった」
卒論のタイトルを「フィギュアスケートにおけるモーションキャプチャ技術の活用と将来展望」に決め、外出自粛となった春から夏にかけて集中的に取り組んだ。そして昨年7月末、卒業論文を書き終える。