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「ジャンプの成功と失敗にどんな違いがあるのか?」羽生結弦が早稲田大学で書いた“3万字卒論”の中身
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2021/04/15 17:02
小学生時代からジャンプの成功、失敗時の要因をノートに記して、分析してきた羽生。近年はタブレットなどを用いて、動作の把握に努めている
「研究の集大成となった卒業論文は、指導した内容以上の結果を出してくれました。文章力も優れていると感じました。例えば、ジャンプの踏み切りの時、どこにどう力が入るのか、フィギュアスケートについては素人である私でも身体の動きなどが目に浮かぶように、理解ができるように表されているのです。とにかく完成度が高く、あまり手を入れるところがありませんでした」
論文は以下の3つのパートから構成されているという。
1. モーションキャプチャ技術による分析
2. 2次元の映像のAIを用いた分析
3. それを3次元に再構成しての分析
「1では、羽生さん自らセンサーをつけ、データを取っています。さらに2では自分自身の過去の演技や他の選手の映像を客観的に分析し、最後に2の映像をもとにして3次元化する試みをしています」
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ジャンプに関しても彼自身がとったデータを基に研究を行っている。
「3回転ジャンプや4回転ジャンプを成功した時と失敗した時にどんな違いがあるのか。滞空時間やジャンプの予備動作の時間などさまざまな角度から分析しています」
こういったジャンプの数値化には羽生のスケート界へのある思いが込められていた。
「ジャンプの回転数を人間の目でしっかり見るのは大変なことですよね。そこに間違いがあるというわけではないけれど、『データをいかすことによってジャッジの人のサポートになるのではないか』という思いが綴られていた。研究の目的が自分のためばかりではない点も印象的でした」
計3万字で「平均的な論文の倍以上です」
西村教授は「卒業論文の域を超えているといっていい」と賛辞を惜しまない。