“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
選手権決勝は110分激闘&PK決着「ストップ・ザ・青森山田」を達成した山梨学院の2つの狙い
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byNaoki Nishimura/AFLO SPORT
posted2021/01/12 11:03
山梨学院が2度目の選手権制覇を達成。PK戦までもつれる大熱戦だった
12分、値千金の先制弾も長谷川監督の意図した崩しを起点としたものだった。
「青森山田は両サイドバックが高い位置を取って、サイドハーフとの関係性でサイドを崩しにくる。サイドでマイボールになったら、サイドバックの裏のスペースを狙うことを意識させた」
右サイド自陣でルーズボールを拾ったMF石川隼大は、攻撃参加していた青森山田の左SBタビナス・ポール・ビスマルクの裏のスペースに流れたFW野田武瑠へ縦パスを送り込んだ。
その瞬間、ベンチの長谷川監督から「ターン!ターン!」と声が飛ぶ。この時、タビナスが上がったスペースを消そうとしていた青森山田のアンカー宇野禅斗が、野田の動きを捉えていた。その声を聞いた野田は左足アウトサイドで切り返して宇野のプレスをかわすと、インナーラップを仕掛けてきたMF谷口航大へパス。宇野と最終ラインの間のスペースでボールを持った谷口は、左サイドハーフ広澤灯喜がフリーになったことを見逃さなかった。
前線に動き出していた久保へクロスを送り込むと見せかけ、広澤へ見事なグラウンダーのクロス。これを広澤が見事なファーストタッチで収めると、すぐさま右足を一閃。青森山田がシュートブロックする前にゴール左隅に突き刺した。
全員が理解していた狙い、届いた監督の声
「守備から攻撃への切り替えをコントロールすることを徹底していた」
長谷川監督がチームに植え付けたコンセプトは、今大会における躍進のベースになっている。縦と横のスライドでボールをサイドに追い込んでから奪い取り、奪った瞬間に相手が空けたスペースに選手が入り込んでパスをつないでいく。相手のサイドバックが攻撃参加しているときに同サイドでボールを奪ったら、その裏をつく。それを全員が理解していたのだ。
山梨学院の意図を察知してカバーに入っていた宇野や、逆サイドにいた右SB内田陽介の中央に絞るポジショニングは素晴らしかった。だが、有観客試合だったら聞こえなかった長谷川監督の的確な声が、そのカバーを有効にさせなかったとも言える。お互いの意図がぶつかり、かつ無観客という今大会特有の条件が生み出したファインゴールでもあった。