“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
選手権決勝は110分激闘&PK決着「ストップ・ザ・青森山田」を達成した山梨学院の2つの狙い
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byNaoki Nishimura/AFLO SPORT
posted2021/01/12 11:03
山梨学院が2度目の選手権制覇を達成。PK戦までもつれる大熱戦だった
78分、前線からの激しいプレスで相手のファールを誘発すると、ボランチ谷口が素早くリスタート。パスを受けた笹沼は得意のフェイントで対峙したDFを揺さぶると股を抜くスルーパス。これを青森山田・内田が必死のスライディングで掻き出すも、サポートに入っていた野田が冷静にダイレクトでゴールに蹴り込み、同点。10番を背負うエースの今大会初ゴールだった。
振り出しに戻った試合は延長戦へ。しかし、両者一歩も譲らず、勝負はPK戦へ突入した。全員成功した山梨学院に対し、青森山田は安斎ら2人が失敗し、熱戦にピリオドが打たれた。
優勝を逃した青森山田・黒田剛監督は選手たちを称える。
「サッカーをやっている以上、決めるところで決めないとダメだし、チャンスの数で勝負をするわけではない。山梨学院の方が1人1人がやるべきことをやっていて、勝ち方をイメージして取り組んでいた。でも、よくこのプレッシャーの中でファイナルまで来てくれたと思う。決勝戦もこの重圧の中でファイナリストとして最後まで頑張ってくれたのは誇りに思う」
「相手あってこそのサッカー」
ストップ・ザ・青森山田――。
おそらく全国の高校サッカーの選手たちが「横綱」と認める青森山田だ。どのチームも徹底して研究し、さまざまな手段を使って抗おうとしてくる。決勝の山梨学院はその最たる例だった。
失点したり、負けようものなら周りから必要以上に辛辣な言葉だって浴びる。彼らは常にそんなプレッシャーと戦いながらサッカーをしてきた。「青森山田包囲網」が敷かれる中での3年連続のファイナル進出に、まずは心から拍手を送りたい。
そんな青森山田を倒した山梨学院は、就任2年目の長谷川監督の戦術と意図を選手たちが理解し、ピッチ上で表現し続けたからこそ、この栄冠を手にすることができた。
「浮き足立つこともなく、背伸びすることもなく、今必要なことをきちんと取り組むことができた大会だったと思います。ミーティングを含めて、どうやって戦うかをきちんと伝えられたし、彼らも自分の強みを出して、組織として融合してくれた。選手たちに心から感謝をしています」
長谷川監督の言葉に偽りはないだろう。選手たちも「監督の言うことを信じてやれば、結果が出ると思って取り組めた」(野田)と、指揮官と考えを共有し、最後まで戦い抜いた。
両チームのこうしたチーム作り、試合を通じての成長なくして、この素晴らしい決勝戦は実現しなかった。最後に長谷川監督が口にした言葉で、決勝のレビューを締めたいと思う。
「コロナ禍の状況でサッカーができる感謝、大会を最後まで開催してくれた感謝の気持ちを、この2チームで表現しようと思っていた。相手あってこそのサッカー。それをこの2チームで見せることができてよかったと思います」