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【高校サッカー史に残る伝説の選手宣誓】元青森山田主将・住永翔が4年前の“2分50秒”を振り返る
posted2020/12/28 17:02
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
Takahito Ando
2016年12月30日、第95回全国高校サッカー選手権大会はこの言葉から始まった。
パルティード・ア・パルティード――。
2分50秒にも及ぶ堂々とした選手宣誓は、この大会を象徴するものとなった。
言葉の主は青森山田高校の主将・住永翔。この年の青森山田は、高円宮杯U-18プレミアリーグで初優勝を飾り、“ユース年代最強”と謳われ、同大会でも青森県勢初の選手権制覇を果たして高校2冠を達成している。
「パルティード・ア・パルティード」とはアトレティコ・マドリーの監督であるディエゴ・シメオネが、「目の前の1試合、1試合を大切に戦う」という意味で口にするフレーズだった。
「選手宣誓が決まった時から、記憶に残る宣誓にしたいという思いで、(青森山田高校サッカー部の)黒田剛監督と内容を相談しました。自分が宣誓を通じて伝えたいことをいくつか提案したのですが、その中に1試合、1試合、目の前の試合に向けて全力を尽くすというものがありました。そこで黒田監督に提案されたのが、『パルティード・ア・パルティード』という言葉だったんです。この言葉から始めたら、聞いている人も耳を傾けてくれるんじゃないかなと思いました」
当時、ブラジルのサッカークラブであるシャペコエンセに起こった飛行機事故の話を入れるなど、サッカーができる喜びを、そして感謝の気持ちを表現した素晴らしい選手宣誓だった。
「よくこんな大勢の人前で……」
あれから4年の歳月が経った。住永は現在、明治大学4年生。冷静沈着なボランチとして関東大学1部リーグ連覇に貢献し、卒業後はJ3長野パルセイロへの加入が内定している。
「よくこんな大勢の人前であんなに長い宣誓を何ひとつ間違えずにやれているなと思いますね」
4年前の自分の姿を見て本人も笑うように、2分50秒の宣誓は前代未聞とも言える長さだった。
「歴代の宣誓を見ていても、英語で喋っている人もいたし、いろいろなパターンがありましたが、時間はみんなほぼ一緒。でも僕はこんな大舞台で選手宣誓をするのは一生に一度あるかないかのことなので、やるからには記録と記憶に残したかった。記録は優勝という結果、記憶は宣誓で。その両方を残すために、内容は妥協したくなかったんです。黒田監督や国語の先生にも協力してもらって、練りに練って作り上げたのでコンパクトにまとめようとは一切思いませんでしたね」
忘れたり、噛んだり、長ければ長いほどプレッシャーが懸かる。だが、住永は「その長さを感じさせず、凛とした姿で宣誓をやり切ったら、絶対に人々の記憶に残るだろうな、選手宣誓をやった甲斐があるだろうなと思えたんです」とモチベーションに変えていた。直前合宿ではチームメイトの前で何度も練習した。周りの仲間たちもその住永の熱い思いに真剣に耳を傾けてくれた。
ただ、開会式当日のリハーサルでは1つのフレーズを飛ばしてしまったという。
「全部言ったつもりだったんですけど、仲間に『ここのフレーズ抜けていたよ』と言われて……。でもそこで慌てるというより、『チームのみんなもちゃんと宣誓の内容を覚えていてくれて、真剣に向き合ってくれているんだな』と思って逆に落ち着けたんです。仲間のおかげですね(笑)」