令和の野球探訪BACK NUMBER
坂本勇人の恩師・金沢成奉が「甲子園に取り憑かれていた」から「補欠を作らない」に変わったワケ
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2020/12/25 11:03
明秀日立高校を率いる金沢成奉監督。この夏はこれまでの考え方を改める機会となったと語った
最後までやりきる人間を作る
これまで「試合に出るだけが野球ではない」「補欠には補欠の役割がある」という固定観念がありました。社会に出てどの組織に入っても、営業する人もいれば、モノを作る人や経理をする人もいるというように役割があります。同じように、試合に出られなかったとしても「メンバーの手伝いをすることも役割の1つ」と、メンバー以外の選手には補助に徹してもらっている部分がありました。
ただこの夏はこうした事態ということもあって3年生全員を起用しました。そこで例年であれば、どこかで諦めたり妥協したりしていたかもしれない選手たちが、最後までやり切る姿を目の当たりにしました。そこで、これまでの固定観念や建前で選手たちのやる気を失わせていた部分もあったなと思いました。
ですから「補欠を作らない」という言葉の本質は「最後までベストを尽くし、最後までやりきる人間を作る」ということです。
メリットの方が大きい理由
以前のような「選択と集中」から「全選手に練習の機会を与える」と変えたことで、「はかどり(効率)」の面でのデメリットはあるかもしれません。ですが、同じ練習をすることで全選手の意識とともにチーム力が高まったので、メリットの方が大きいと感じています。
レギュラーとの競争意識が芽生え、レギュラーの危機感も高まりチームの底上げができました。結果次第でいくらでもチャンスがあるので、練習に対する意欲がそのままゲームに対する意欲へと移っているような気がします。
また「選手を練習漬けにしていた」とも気づきました。昔の指導者の大半がそうだったと思いますが、「休まないことが美学」「練習をやっていれば勝てる」と考えていました。
これまでの休みは月1回程度でしたが、今は定期的に休むようにし、木曜日はウエイトトレーニングや課題練習をやる日と決めました。だから、私が目を光らせてやる練習は、火、水、金、土、日。週に2日は、彼ら自身が考える日と休む日(主に月曜)に充てようと思いました。それは、私の中ですごく勇気のいることでした。
これもコロナの影響が背景にあります。全体練習をやりたくてもやれない時間が多くありました。それでも自立する選手たちが現れ、体が大きくなっていく姿も見て「考える時間と、体を作る時間の両方がある程度ないといけない」と感じました。