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「勝負強さに欠ける」という視線を跳ね返し…桐生祥秀の「勝ち」へのこだわりとプロ意識
posted2020/10/18 06:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
勝ったのは、桐生祥秀だった。10月2日、陸上日本選手権の男子100m決勝。この舞台での優勝は実に6年ぶり2度目のことになる。タイムは10秒27と自己ベスト9秒98には程遠い数字だ。
それでも、「(優勝は)大きいです」と桐生自身も語るように、さまざまな意味のある優勝であった。
近年、男子短距離の充実はめざましい。
男子4×100mリレーにおいては、2016年のリオデジャネイロ五輪銀メダル、世界選手権では2017、2019年と2大会続けて銅メダル。もはやメダル獲得は珍しいことではなくなった。個人に着目しても、長年、挑戦が続いてきた10秒の壁を破った選手は3人現れた。
その中心に、桐生はいた。
「勝負強さに欠けるのでは」という視線
高校3年のとき、日本歴代2位(当時)の10秒01を出し脚光を浴びると、世界選手権にも出場。短距離個人種目では初めての高校生日本代表だった。
大学4年生となった2017年には、日本学生陸上競技対校選手権で9秒98をマーク。日本で初めて、9秒台のタイムに乗せたのである。
また、先に記した国際大会のリレーメンバーにもいつも名を連ね、メダル獲得に寄与してきた。
ここ2年は、10秒0台を出す回数も増えた。地力が上がったことを示している。
実績を築き、競技レベルも上げてきた桐生は、常に記録更新の期待が寄せられていたし、そして100mのレベルを向上させる役割も果たしてきた。
一方で、桐生に対して「勝負強さに欠けるのでは」という視線が向けられることもあった。
象徴的だったのが昨年までの日本選手権。国内大会では最も重要な、そしてそのシーズンの国際大会の選考もかかる大会で、2014年の初優勝のあとは勝利に手が届かなかった。